ユーリア・エンゲストローム(2010)『変革を生む研修のデザイン』鳳書房
- 教授の質は技術的な方法で高めることはできず,学習や教授への理論的な洞察が必要である。
- 用語の整理
- 教育=人間の発達に対して,意識的・目標志向的に影響を及ぼすこと。他の活動(ゲーム,娯楽,政治活動)の文脈の中で経験される影響もある。
- 研修=特定の技能や能力の獲得を目的とした教育
- 教授(Instruction)・指導(Teaching)=体系的な教育の形式。学び手の人格に効果的(=阻害要因から保護する)に影響を与えること。
- 指導の質の改善において,教授の外的要因と内的要因の区別が決定的に重要。指導を生産的に計画し実行できるかは内的要因への精通にかかっている。
- 指導の外的要因と内的要因
- 教授目標:観察可能な望ましいパフォーマンス(行動目標形式で表現) ⇔ 習得すべき内容かパフォーマンスの方向付けのベース(認知的目標形式で表現)
- 学習の動機づけ:生徒の注意を保つ刺激・報酬・罰 ⇔ 知的な出会いや認知的コンフリクトを通して換気される主題事項への関心
- 教授内容の選択:出来合いの事実やパフォーマンスの図式 ⇔ モデル・原理・アイディアのシステム,談話の様式
- 教授方法:さまざまな形式(エンターテイメント,つかの間の注意の維持) ⇔ 一連の教授的手立てによる学習の全体的サイクルの段階的な具体化
- 計画の提示:時間割,講義概要,スライド ⇔ 教授のテーマ単位を示すカリキュラム
- 指導場面における講師:プレゼンテーションスキル,社会的相互作用の駆使,組織化スキル,視聴覚技術 ⇔ 主題事項の内容の把握,カリキュラムへの柔軟な依存,教師の倫理
- 学習を知識・技能・態度に分けることは,学習に関する概念を誤解している。
- 学習は,受容・蓄積を越える複雑な心的・実践的活動であり,学習者は常に情報を選択・解釈し,新しく手に入れた素材を現在の活動や既有の構成物に関連づけ,溶け合わせる。→ 有意味学習
- 学習の基礎は「内化」=物質的行為を心的行為に変換することであり,このプロセスにおいて言語と発話が重要な役割を果たす。言葉は,物質的現象や行為が認識され,同定される際のツールである。
- 生産的学習の構造:道具=観察と実験のツール,書物,他者による説明,学習者=好奇心を持った観察者,問題解決者,対象=問題,説明を要する現象
- 伝統的な学校の構造:道具=文房具,スタディ・スキル,学習者=生徒,対象=学校のテキスト
- 探求的学習の4条件:正当な学習の動機づけ,主題事項の内容の適切な組織化,妥当な学習プロセスの進行,学習プロセスにおける十分な社会的相互作用と協働
- 動機づけの3タイプ:状況的(持続しない・妨害受けやすい,テーマの魅力,教師の刺激,おもしろいパフォーマンス),疎外された(報酬を受ける・罰を避ける,勉強は切り抜けるもの),実質的(学習者が従事する実践の習得・理解・発展・変換に「使用価値」を感じること)
- 実質的な動機づけをつくる条件:
- 学習者が自分の知識・技能と自分の直面する新しい課題の必要条件との間にあるコンフリクトを経験し,認識する時に実質的な動機づけが生じる。
- コンフリクトは,学習者の仕事とニーズ,主題事項の内容の双方にとって中心的でなければならない。よって,学習者の仕事実践における矛盾や問題,学習者の既有枠組み,教授される新しい構造を注意深く分析する必要がある。コンフリクトを使う目的は,学習者に自分の実践と主題事項の双方にとって中心的な問題を熟考させることである。
- コンフリクトを説明し,類似した状況を解決できるようになるには,どのような種類の原理・概念を構成すべきかを示す。実質的な動機づけは,学習者が問題解決をしている間に,方向付けのベースを形づくることで生まれる。
- 動機づけの強化は,実践的な活動を伴うことで行われ,これが主題への興味を長期的・自立的に発展させる。
- そのために講師は,慎重な知的・実践的な努力を要する高度な要求と挑戦を学習者に対して設定しなければならない。
- 知識の組織化:カテゴリー(アヒル,ブタ→鳥と哺乳類),ステップ(手続きやプロセスの記述,ex.マニュアル),ネットワーク(動的)
- 知識の質は2つの軸で組織化される:1軸=知識はどのように表彰されるか(記号的・言語的,視覚的・画像的,身体的・感覚運動的),2軸=知識はどのように組織化されるか(事実,定義と分類,手続き的記述,システムモデル)
- 学習の6つのステップ:どこかが欠けると学習は表面的で断片的になりやすい
- 動機づけ:コンフリクトを経験・認識していることが前提。
- 方向づけ:問題解決に必要な知識の原理と構造を説明する予備的仮説を示す。
- 内化:新しい知識の助けを借りて,予備的なモデルを豊かにしていくこと。
- 外化:具体的な問題を解決し,モデルをツールとして応用すること。問題に対する解決策を考え,発話・図表・計画・スケッチ具体的行為の助けを借りて自分の説明モデルを再構成する時に外化が起こる。
- 批評:自分の獲得した説明モデルの妥当性と有効性を批判的に評価すること。
- 統制:自分自身の学習を検討すること。
- コンフリクト状況が成果をあげるかは,課題がどれだけ入念に準備されたかによる。
- 原理の学習を促進したいなら,固定した外的なパフォーマンスを目標として列挙したり望ましい行動結果をあげて説明するだけでは十分ではない。
- 行動目標は十分ではない → 認知的目標の設定=学習の観点からいえば,外的なパフォーマンスの構築基盤となる原理や構成概念の理解を目標として実質的に記述することが重要。
- 意味のある丸ごとの課題を構成するために必要な決定的要素は,課題の中に文脈を包含することである。
- 方向付けのベース:人が自分なりに物事を解決したり,その物事を評価したり,その物事に関連する課題を解決したりする際に用いるモデルのこと。(駅の地図を書く=いったことのない人は弱いベースを持つ → 避難経路を書かせると行った人も誤ったモデルを持つ。)
- アインシュタインは創造的だが,勇気や自信のある態度だけでその性質を持ち合わせたのではなく,物理学を理解するための何年にもわたる体系的な研究に基づいている。つまり,創造性はそれの適用される内容や文脈から独立して訓練・開発できない。
- 教授計画の単位(カリキュラム)の要件
- 比較的独立した実質的なテーマを伴っていること(テーマ単位)
- テーマ単位の核心は,重要で新しい理論的洞察か,教授的に価値のある概念であること
- テーマ単位の内容が,理論的洞察と実践的応用が結びつく方法で編成されること
- テーマ単位の長さと範囲は,探求的学習の完全なサイクルを実現するのに十分であること
- 教授方法の外的側面(講義,議論=教授形式)は,どのような教授機能(=探求的学習のサイクルのどのステップが試みられているか)に関連しているかで評価される。
- 教授形式は,大まかに説明,指示,発問に分けられる。
- 教授機能は,9ステップに分かれる。
- 準備:新しいテーマ単位に向けて学習者を準備する
- 動機づけ:認知的コンフリクトをつくり,新しいテーマ単位に対する学習者の興味を呼び起こす
- 方向づけ:認知的コンフリクトを説明・解決するモデルを探す中で,学習者に示される
- 新しい知識の伝達と精緻化:具体化・多様化で方向付けのベースを豊かにする。
- 体系化:テーマ単位の本質的な要点に立ち戻る
- 実践化:行為に向けての準備状態をつくる
- 応用:新しい方向付けのベースを用いて,新しい課題を解決する
- 批評:方向づけベースの説明力や有用性を評価する
- 評価と統制:自分の学習を評価して修正する
- 優れた教師は平均して5以上の教授機能を使用,成功しない教師は3か4使用
- カリキュラムの目的は,教授学習プロセスを導き,モニターすること。
- 指導技術の内的要因:(1)教授学習について,一貫した理論的見方に依拠して教授計画が立てられること,(2)あるトピックについて方向付けのベースの質をいかにうまくデザインできるか,(3)教員の倫理=学習者に経緯を持った関係を気づくこと,教授内容や主題事項の扱われ方に真剣であること
- 良い教授の黄金律
- カバーする主題事項を少なくして,徹底的に教える
- 脱文脈化された断片知識を教えず,なぜを問うよう促すこと
- コンフリクトによって実質的な動機づけを喚起すること
- 主題事項の本質的な原理を明らかにする方向付けのベースを作り出すこと
- 探求的学習のサイクル(動機づけ,方向づけ,内化,外化,批評,統制)を目指すこと
- 自分の教授を,自分のカリキュラムと比較し,他の教師が何をしているかに気づく
- 学習者を尊重し,言葉を指示し,教える内容を真剣に捉え,教える内容について自らの見方を形成する
- 研修の2つのデザイン:インストラクショナル・デザインと,学習環境のデザイン。前者をOff-JT,後者をOJTとするが,両者をどう関連づけるかが課題。
- ブルームの認知的領域(知識,理解,応用,分析,統合,評価)と探求的学習のプロセス(動機づけ,方向づけ,内化,外化,批評,統制)は似ている。ただし,認知的目標の中身が,方向付けのベースによって語られる点が違う。=観察可能な行動の背景に入り,なぜそのような手続きをとるのか,その起源と原理は何なんかを問うことを意味し,その問いに答えようとする際に用いるツールが方向付けのベース。
- 方向付けのベース=複数の人に共有されるメンタルモデル
- 方向付けのベースは,プロトタイプ,先行オーガナイザー,アルゴリズム,システムモデル,肺細胞の5タイプに分類できる。
- テーマ単位=単元