藤村正司(2015)「高等教育組織存立の分析視角―新制度主義から見た国立大学の現状と行方―」『大学論集』48,49-64
- ねらい:柔結合のHE組織が,PA論の中でどのように存立するかのルールを説明する。HE研究を新制度主義の潮流に近づける。
- 低成長・財政逼迫・経済のグローバル化 → 新自由主義改革 = PA論・NPM
- →(1)経営権の学長委譲とヒエラルキー構築,(2)間接統治としての中計中目,(3)公募型予算
- PA論が前提とするのは,行為の合理的選択を前提にした現実主義の視点(剛結合を要求)。
- しかし,大学は柔結合なので規範と行為は一致しない。→ 対外的に結合した見せかけ・儀式化が行われる(脱連結)。
- オープンシステム戦略(トンプソン)
- 複雑な組織体を不確実性に直面するものと捉えると同時に,他方で合理性の規準に従い,確定性を必要としているもの(coupling)と理解した。
- 柔結合・無秩序:学問の自由を支える組織原理 ⇔ 大学自治能力の欠如
- 自治能力 = 専門的権威による調和と統一を確保する能力 ← 他の意思決定主体の参加で葛藤と対立が生まれる。
- 46答申:平時に学長を大臣と大学の間に置く発想を反映。→ 04年法人化で具体化。
- 04-14年の変化:本部職員の増加,垂直的官僚組織としての転換をはかる。
- ← 個別大学で対処療法的に進められた ← 新たな教育研究組織の下で協力体制は生まれなかった。
- 新制度派組織論:組織の公式構造に付与された意味や規範に焦点を当てるトップダウン型の社会認識。
- 制度 = 公式構造と日々の実践的活動との間に現象学的な切断を行うことで,過剰な選択圧力と不確実性から人間を保護するもの。→ 組織は資源を恒常的に確保し,組織の安定化に寄与する。
- 技術的環境やタスク環境よりも広い意味世界(法的システム,政府のエージェント,信念体系,プロフェッション,神話,進歩,科学,世界文化)を想定し,国家や組織,個人はこうした「聖なる天蓋」に埋め込まれることで正当化される「疑似宗教論」。
- Ex:新制時にアメリカから移植された一般教育が,大綱化で自由化され,教養部が改組されても,いまだ高等普通教育(スキル・リメディアル),教養教育,前専門教育として名称を変えながら存続しているのは,教養教育が効果的であるとか組織化されているかに関わらず,「制度としての教養教育(一般教育)」という理念的実在が存在し,大学教育に自明な知識として人々が(すべての人ではないが)共有しているからである。(理念的実在の総体が制度。)
- マイヤー・ロワンの命題:組織の公式構造の中に社会的に正当化された合法的要素を取り込んだ組織は,その正当性を最大化し,その資源と生存能力を増大させる。
- 柔結合・無秩序・暗黙知(弱い合理性)を隔離するため,外部で正当化され権威付けされた資格・専門職・サガ(=物語)を取り込むことで組織の安定を確保する。
- Ex:答申に出たFDer,IR,URAは正当化の事例。それらが実際に有効かどうかは重要でなく,対外的に正しい人材を配置しているという「適切さのロジック」を提供するもの。→ 本部職員が増える。
- Ex:学部名称の個性化 ≠ 学問体系の揺らぎ,= 希少性・斬新性・社会とのレリバンスという規範をシンボリックに符号化したもの。
- 3つの矛盾:
- 有効性・効率性との齟齬(SGU採択で外国籍教員2倍 = 外部評価を高める儀礼的便益 VS 人件費純増
- 制度化されたルールと現実の教育研究活動との矛盾(= 標準化・抽象的 VS 複雑・ユニーク)
- 制度化されたルール自体の過剰性(実績報告書のボリューム逓増)
- 新制度主義(?):組織の安定にとって制度化されたルールへの非選択的なコンプライアンスを是とする。
- 脱連結:組織の内実と制度化されたルールの両者を一致させることから生まれるジレンマや制度化されたルールの実質化を回避するマネジメント。
- 複雑な組織の存立 ≠ 公式構造による行為統制,= 規範と行動,政策と実践,計画と実行,意図と結果の間に戦略的な分離やダブルスタンダードが存在する。
- → 怠慢・病理でない。制度化されたルールに適応したパフォーマンスと,パフォーマンスと直接結びつかない儀礼的プロセス(緩衝化)が併存。
- 官僚制対プロフェッションという二項モデルから我々を解放する。
- 脱連結による組織防衛戦略:業務の専門家への委託,目的の曖昧化,都合の悪いデータの選択的回避
- 脱連結を支える信頼の論理と監査と評価の儀式化:評価者は大学の提出する根拠資料やデータを額面通りに受け取り深く詮索しない。
- 脱連結の4つの課題:
- 脱連結が作動する条件の検討:正当性への受動的なコンプライアンスだけでなく,資金の獲得可能性も含めた戦略的応答がある。(やり過ごし戦略 = 年俸制導入で人事給与システム改革の約束を果たす。)
- 脱連結の受け入れはPrincipal側の混乱と不信を招く。
- 脱連結が非公式集団によるボトムアップ連携を生むか疑問。
- 植民地化の影響:脱連結と逆に,内部統制が組織のテクニカルコアに浸透する可能性がある。
- ダブルスタンダードによって組織のアイデンティティが維持できるかは,,今日の高等教育に対する厳しい環境と過剰な期待から断言できない。
- 大学を「組織的感応性」と機動性・透明性の高い組織に体質改善を図ることは,世界的な大学の潮流である。
- 脱構築による日々の教育研究活動の防御は,社会からの大学に対する信頼,監視,サンクションに依存する。
- 「制度化されたルール」が競争優位になる,効率性が測定可能である,監視とサンクションが強化される → 脱連結抑制 → テクニカルコア浸潤 → タイトカップリングへ。
- Ex:大学ランキング:大学をバーチャルな競争に駆り立てる表層的市場を創出 → 日々の教育研究活動とリンクしない競争なのに現実活動を侵食する。
- PA論(効率化・ヒエラルキー構築),新制度主義(脱連結),いずれも標準化がもたらす多様性の喪失については何も語らない。