鈴木宏昭(2022)『私たちはどう学んでいるのか』ちくまプリマー新書
- 能力というのはアブダクションから生まれた仮説である。そこに不適切なメタファーが加わることで、誤った能力観(=能力の安定性、内在性という見方)が広まっている。
- なぜこれらが誤っているのか?人の認知にほぼ普遍的に見られる文脈依存性を説明できないから。よって認知的変化を考えるときに、能力という仮説は不要である。
- なぜ誤った能力感が広がるか?人は原因を探る生き物、内化があると原因を推定したくなる(アブダクション)。
- 知識の3つの性質
- 一般性:いろいろな場面で使える
- 関係性:他の知識とリッチな関係を持っている必要がある
- 場面応答性:知識が必要となる場面で発動・起動されなければならない
- 人間の認知過程、知識の構築過程の研究は劇的に進化した。その鍵は身体化(embodiment)。
- 人がものを知る経験はリッチ(=様々な感覚が総動員される)。
- 知識+感覚情報+感情がリンクして経験を作り出す。
- スキルは環境の存在を前提とする:スキルと実行環境の一体化(環境がスキルの実行を助ける)=自動車の運転スキルは、口頭では伝えにくいが、車に乗ると手順を一挙に実行できる。
- 環境は自分の外部と考えがちだが、自分の身体も環境。
- ある部分で働く部品を良いものに変えても全体のパフォーマンスが上がらない=前後の接続性・適合性が、新たな方法の導入で壊れるから(ある操作の前後の操作は、実行の環境)。
- 発達の定義:加齢による非可逆的な変化(加齢=ある年齢に達することが重要、特別な練習は不要)。
- 制約=膨大な情報から今行うことと関連性の高い情報を抜き出すフィルター。認知を支えるポジティブな面、ひらめきを制約するネガティプな面がある。
- 制約を緩和させるには、失敗が必要。失敗を重ねると制約の強さが減少する。
- 転移はめったに生じない:問題を解くには、認知的リソース(情報、記憶)とそれを用いる状況が提供するリソース(文脈情報)を組み合わせて知識を構築する必要がある。しかし、情報だけを教えていると、応用問題が解けないのは当然(カカオ豆を渡されてチョコレートを作りなさいと言われるようなもの)。
- 細分化された要素目標の達成(スモールステップ)は、元の目標達成の兆候や近接項にすぎず、遠隔項(それらを生み出す原因系)内の複雑な相互依存関係・因果関係の産物。兆候が点在するだけでは、真正の理解にならない。近接項に特化した学習は、形だけの結果の模倣が生み出されやすく、転移の可能性が低くなる(融通が利かない)。
- チェックリスト教育は、やる方も受ける方も満足しがち。ここまでできた、次の課題は何かという雰囲気を作れるから。