2008/09/14

慶応義塾大学教養教育研究会(2002)『教養教育グランド・デザイン -新たな知の創造-』 文部科学省委託研究報告書

本書は研究論文という性格のものとは異なるが、教養教育に関して分析的にまとめてモデルを提示したという、この領域では珍しい文献であるので、ここで取り上げてみたいと思う。現在の教養教育の問題とは何か。本書ではこれを、大学教員の専門重視・教養軽視と言い切る。しかし、大学全入時代がくる中で私立大学にとっては、基本的な知識や基礎学力の欠如した学生・学習分野の偏った学生とのミスマッチの解消が、教育の質の向上に決定的な問題となる。
学力の低い入学者を受け入れる中で、大学の存在意義は何か。それを本書では、社会のリーダーの輩出と位置づける(これを前提に以下の議論を組み立てる)。すると、リーダーに求められるものは、「人類が築き上げてきたさまざまな知の体系に対する深い造詣とこれを現実に適用するための明確な自己の座標軸」であるという。別の言葉では、古典から現代までの知の連鎖の理解と、それに自らの体験を符合させることで確固たる世界観・価値観を確立することである。
ここまでは、概論ということで他の文献でも既に語られていることかもしれないが、これをどうやって具体的なデザインにするかである。以下ではこれを(1)知のありかた、(2)カリキュラム化、(3)それらを支えるマネジメントシステムという視点で独自に整理してみる。まず(1)について、知とは文化知・社会知・化学知・身体知・言語知・複合知があるという。身体・言語が知の創造と継承、文化・社会・科学が知の継承と伝達、複合が新たな知の複合という。しかし、これだけではこれまでいわれてきた教養科目の分類を言葉を変えているにすぎない。(2)については、モジュール制というものを出している。このモジュール制自体は非常に興味深い特徴を持っており、レベル制の導入、複数専攻制など、知を獲得するためのロードマップが示されている。(3)においては、グレード制科目の設置、GPAの活用、入学要件などが示されているが、具体的な提案は示されていない。ここでは、(2)の知を継承し、創造して伝達し、複合させるための道筋が本書のポイントと思われる。これは見方によっては、モジュール=学年で、従来のものを言葉だけ変えているように思えるのであるが、専門と教養というような区分を考えず、学士過程はすべて教養教育であるという発想を前提にデザインされている点が重要と思われる。