2014/09/18

金子元久(2014)「大学の組織とガバナンス」『大学研究』筑波大学大学研究センター,第40号,1-18


  • 大学組織は制度と不可分な自明のものとして研究対象とならなかったが,社会における大学の役割に再検討を加える必要性から,組織研究の必要性が生じた。
  • 教育のあり方を変えなければならない → それが進まないのは教授会に原因あり = ガバナンス研究のニーズ発生。⇒ 結局,組織研究は教育改革の視点で検討しなければならない。
  • 現在の大学教育の問題点
    • 入学時点の将来展望が明確でないために,教育と将来の関連の確信が低く,自律的な学習時間低下となっている
    • 教員は少人数教育に重点を置き,授業の改善に積極的でない
    • 企業は専門的知識よりもその獲得過程で獲得される一般的汎用技能と人格的成熟度を求める
  • 一般的な組織研究の分析対象
    1. ガバナンスのあり方=組織内での意思決定と執行,権力と責任の分布
    2. 組織構成・組織形態のあり方=組織内での分業と意思決定の枠組み
    3. ミクロの側面=組織内での構成員の役割と行動,それを支える動機づけ
  • 一般的な組織論は,大学組織について限られた含意しかもたらさない = 大学組織は一般組織と比べて活動の性質が異なり,それが組織のあり方にどのような関係を持っているかをあらかじめ整理する必要がある。
  • その基本的な視点は,知識の生産(≠ モノ・サービスの生産)。知識は本質的に多様,その現実的な効用を持つ経路も多様,知識の習得は教育を受ける側の参加によって効果を上げられる。
  • これに伴う組織が持つ特質
    1. 組織内活動の多様性と情報の分散性 = 起業は合理的に分業,大学は分業は不能で並立。その多様な活動を1つの枠組みに収める点が大学。情報偏在なので権限や資源配分は下位組織に委譲される。
    2. 一元的指標で活動成果が把握できない = 特に教育の成果。
    3. 組織の二重性 = 企業≠顧客,市場的交換で媒介。大学は学生を大学に組み込むことでサービスを有効に用いられる。
  • 大学組織の分析枠組み
    • ガバナンス:大学全体としてどのように意思決定され,資源が配分されるか。意思決定のアクターは,社会の代理人,管理責任者,教員の3つ。
    • 中間組織と基礎単位:教員集団がどのような単位で組織化されるか。学部=中間組織。学科・研究室=基礎単位。これらの間の垂直的権限配分が問題。
    • 教育プログラム:学生が帰属する組織と教育がどのような枠で運営されているか。学生の入学・教育プログラム選択・卒業認定がどのようなプログラムにおいて行われるかが問題。
  • 学部型:WW2までに形成されたヨーロッパ型大学組織の骨格
    • 大学全体の意思決定機能は限られる:大学自治の主体は教授会
    • 学生は学部に帰属し,そこで専門的教育を受ける(=進学率が少数)。
    • 戦後は大学全体の管理体制が強化される。
    • 中間組織が改組される(学部を廃止して細分化した教育研究単位が基礎単位になったフランス。ドイツも学部に対応する学会を置く)。
    • 学生の学習枠組みが変化:大衆化すると目標管理型の教育体制は不能,試験を中心とする学習課程と単位制=学生の学習過程管理志向強化。
  • カレッジ型:イギリス
    • 各専門分野の教育機能が各カレッジに分散=カレッジは小大学。
    • 90年末から大学の管理運営を単一経営主体として行うカウンシル設置(学外者を含まなければならない)。大学評価や補助金配分がデパートメント単位 → デパートメント型へ。
  • デパートメント型:アメリカ
    • ハーバード・カレッジ=ケンブリッジの1つ。
    • 学外者から成る理事会が任命する学長によって大学全体の管理を行う。教員の専門分化が進まず,もともと内部の中間組織も明確でなかった。
    • 1920までの近代化過程で,イギリスから受け継いだリベラルアーツによる人格形成を,経済発展・近代科学技術,国際的学術発展とどう統合するかが問題になる。
    • その結果,学長はDeanを指名し内閣を構成する,事務局を拡大するなど,アドミニストレーションの機能が学長・幹部教員・事務機構からなる明確な組織の一部として認識されるようになる。
    • また,一定の専門分野ごとにデパートメントを組織化することで高度の専門教育を行う機能を持たせた(大学院)。
    • 選択科目と学士課程のプログラム化
  • 日本では専門別の高等教育機関が大学に統合された歴史から,学部が基礎単位となった。設置基準も学部を単位として教員・設備・定員などを規定した。
  • 73年学校教育法改正:大学には学部を置くことを常例とする。ただし,当該大学の教育研究上の目的を達成するため有益かつ適切である場合においては,学部以外の教育研究上の基本となる組織を置くことができる。
  • これは筑波大学設置を意図したもの:(1)管理組織における学長・執行部権限強化,(2)大学院の5年一貫性,(3)研究組織=学系,教育組織=学群・学類。
  • 大学院重点化:91年東大法学部,教員の帰属を大学院にする=大学院を部局化する=一人あたり積算校費単価の増額が認められる → 国立大で重点化競争 → 2000年積算校費基準統一で経済的メリット消滅
  • 教員側の利害で内部組織変化が起こり,教育組織としての学部に基本的変化が生じなかった。
  • 2007年設置基準改正で,講座制・学科目制に関わる詳細規定廃止。これも学部そのものの議論なし。
  • 現代の大学組織は,学部型とデパートメント型に大別できる。日本は学部型=全体の統治機能は弱く,学部に広範な意思決定権があり,学生は入学時から学部に分かれる。
  • 学部型は学術の内部の論理によって意思決定を行うが,デパートメント型は社会の要求に対応しやすい可能性がある。
  • デパートメント型が望ましいとして,その移行にはどのような形態が可能かを問う必要がある。