清水勝彦(2011)『戦略と実行―組織的コミュニケーションとは何か』日経BP社
- 米国コンサルタントは,戦略が企業の業績を決めると言い切ってきた。業績=戦略=分析・ロジック。近年は揺り戻しがきて,業績=戦略×実行=分析・ロジックになった。でもこれはおかしな公式,本当は,業績=戦略×実行=分析・ロジック×組織における人間の気持ち。
- 戦略や目標が共有化されていれば,実行につながる。それは,知らせる・明示されるではなく,社員側の知った・共有できたが鍵。単にロジカルに説明すればよいのではない。腑に落ちる,つまり夢を理解した上で,そのためにつらいこともあるが,やるしかないと覚悟すること。
- 戦略はコモディティ化した。立てる,持つだけでは価値がない。
- 実行は,戦略の仮説を展開し,戦略立案段階に明確にできなかったこと,予想できなかったこと,間違っていたことを知り,フィードバックを通して戦略を練り上げるプロセス(仏に魂を入れるプロセス)である。
- 大きな問題に対して大きな改革で応えることは,複雑な問題を複雑な解き方で解くことであり,一歩間違えば傷を深める。理論的に正しいアイディアに支持が得られないことを,顧客や社員が間違っていると思っていたかもしれない。(HPのカーリー)
- ハードの最大の才能は聞くこと。合理的であるとは,情緒的なものを無視してよいのではなく,人間をよく知った上で理にかなっていること。(カーリーの後のハード)
- 失敗の理由は,あれもこれも(トレードオフがない),時間・準備不足(拙速),戦略が不明確(実際何をどうしたらよいかわからない),実行と評価がリンクしない,責任が不明確,部門間の対立,納得性が低い,片手間の実行,情熱・本気度の不足。すると,明確な指示をする,十分な準備を持って実行に臨む,戦略を具体的な行動レベルに落とし込む,という突破口を探してしまう。実は,これは戦略は難しいが実行は簡単という前提を置いている。これらの理由は全て誤解。
- 結局,戦略(未来の仮説の実行)には,仮説を試行錯誤で完成させていくという「姿勢」が必要。
- 戦略の意思決定では,核となる目標ははっきりさせないといけないが,実行のプロセスで新しい情報を得たり失敗して戦略に反映させることも必要。
- コミュニケーションは,情報量が増えることではなく,お互いの立場をよく理解すること。価値観がどういうもので,なぜ対立するか・どこが対立するかをよく知る。情報,論理,価値観の順にレベルが上がる。
- 組織におけるコミュニケーションとは,戦略の核とのある目的について合意する,合意できない戦略についても100%の力を投入するための納得を培う,実行の過程で新しく発見された情報を戦略に反映させること。
- 納得は,感情によるところが大きい。そこまでするのか,という感動で人は動く。これが前向きな妥協を生む。
- 仲が悪いからコミュニケーションがないのではなく,コミュニケーションがないから仲が悪くなる。
- メールはレベル1,2のツールとしては効率的だが,レベル3のツールとしては致命的欠陥がある。意味を共有化するコミュニケーションは,基本的に非効率。
- 組織の実行力を測る質問
- あなたは,相手が話を聞かないのは自分の責任だと思っているか。
- あなたは,会社のビジョンを「絵」に描けるか。
- あなたは,プランにどれだけ資源をかけているか知っているか。(掛け過ぎを認識)
- あなたは,チェックをした「つもり」になっていないか。
- あなたは,制度を作って「できた」と思っていないか。
- 「成功」と「失敗」の二分法でさまざまなことが語られていないか。(何ができ・できないかを突き詰める繊細さが必要)
- あなたは,「和気あいあい」が「コミュニケーションがよい」ことであると思っていないか?
- 「根負け」したりさせられた経験を社員が持っているか。
- あなたは,現場での「発見」を奨励しているか。
- あなたは,「コミュニケーション」に効率性ばかりを求めていないか。
- 戦略を実行するとは,現場に投資すること,現場を酷使することではない。
- 総論賛成・各論反対は,組織で実行する際の前提であり,実行がされない理由ではない。反対があっても各論を決めて実行に移せるかどうかがポイント。よって,コミュニケーション抜きにはありえない。結局,組織のメンバー間の「関心」の問題。メンバー間に関心がなければ組織力はないに等しい。
戦略論研究の方法論のヒントも得られる良書。