2009/06/29

天野郁夫(1992)「学部教育像の再検討」『IDE現代の高等教育』7月 pp.11-18. 

 学部は「教育研究上」から組織される。つまり、教育と研究は不可分。確立された学問分野ごとに学部が作られ、その学問の研究者が集まって教授陣を構成する。学問・学部・教授陣・教育課程の間に一貫した縦の対応関係があり、そのモデルはアメリカよりも19世紀以来のヨーロッパ的大学であり、まさにエリート型の大学に特権的な組織形態である。

 逆にアメリカは教育と研究が分離され、カレッジは筑波の学群相当、デパートメントは学系相当、教員は学系所属、学生は学群所属、デパートメントは専門を同じくする研究者集団のユニット、カレッジは学生に対する教育の必要に応じて組織される教育のユニット。

山中伸之(2008)『できる教師のすごい習慣』学陽書房

  • 朝は5時前に起きる
  • 見たいテレビは録画する
  • わずかでもいいからやる
  • 情報はラジオから得る
  • 新聞は読まない
  • 仕事は単純作業から始める
気になったところのみ。

2009/06/27

井門富二夫(1994)「学部再編の動向1994年」『IDE現代の高等教育』7月 pp.5-14. 

 昭和31年に設置基準の運用が文部省にあずけられた後、大量に進学してくる学生を受け止めるために、受益者負担の原則を利用して多数の私立大学を創立した過程で、大学の質の均質化を守るために、旧制高校と旧制大学の両面を一般教育と専門教育の2面に縦に分割する誤訳が行われた。

 アメリカの総合大学は、基礎学術学部(faculty of liberal arts and sciences)と応用学術の各学部(メディカルスクール等)に分かれ、日本の文・理・政・経・社会科学は、基礎学術分野のデパートメント(筑波大学の学系、ICUのデパートメント・ディビジョン)にすぎない。

2009/06/26

苅谷剛彦(1994)「カリキュラム改革の教育学、経済学、社会学」『IDE現代の高等教育』7月 pp.48-55.

 設置基準の大綱化によるカリキュラム弾力化の方向性について。

 (1)履修要件の弾力化(人文、社会、自然、外国語、体育という領域別履修要件の取り外しや軽量化)、(2)科目区切りや名称の変更(ディシプリンごとの科目編成からテーマ中心の学際性を強調した科目編成)、(3)時間の区切りの弾力化(4年を通じた教養教育=年次単位の弾力化、セメスター制・学期制=学期編成の弾力化)、(4)担当者の組織構成の弾力化(教養部改組、全学共通教育を特定の教員組織に固定させない)、が主流。

2009/06/25

鎌田浩毅(2006)『ラクして成果が上がる理系的仕事術』PHP新書

 本書は、文書を書くような知的創出活動のためのノウハウをまとめたものである。書かれた内容は全て基本的なことであるが、初年次向けの学習リテラシー教材としても活用可能な文献である。
  • 知的生産と知的消費は違う。知的生産とは、企画書・論文・書籍など文章の集積が出来上がること、知的消費とは本を読む、教養ある会話をする、ネットサーフィンをする。知的消費は人生を豊かにするが、知的アウトプットから遠ざかる。知的生産は理系が得意、知的消費は文系が得意。
  • 完璧主義とは自己満足の世界。よりよくするために必要以上のデータを集めたり思索したりすることで自分は満足し安心するが、来るべきアウトプットから遠ざかるうえ、自分でそれに気づきにくい。
  • 知的生産を行う前に、必要以上に資料・情報を集め、使わない情報を溜め込むのが、日本人に多いインプット偏重主義。どこが不足して何を埋めれば完成に近づくかを直観的に判断する構造主義が重要。
  • できるところから書き始める。ある程度調べたらとにかく書き始める。調べるのはいくら調べても論文にならない。
  • 大事なのは思いつき、発想で、それを書き留めておくことに価値がある。メモにしなければ思いつきはあっという間に蒸発してしまう。
  • とりあえず最後まで完了する。できるところから完成させればよい。何をする上でも最大の目標となる。
  • 本は読んだところに線を引くなど印をつけておく。
  • パソコンを起動してメールを見る、ついでにブラウザでニュースを見る、ということは、仕事の開始から受け身の姿勢に陥っている。情報が垂れ流される結果、受け身でモニターを見る時間が長くなっている。
  • 人はそれぞれ固定観念というフレームワークを持っており、対人関係はそのフレームワークのすりあわせである。相手に認識反射を出させるためには、相手が言ってほしいことを一言でまとめて返す、相手の良い点を見つけて言葉にする。相手の発する言葉に繰り返し出るフレーズを使ってキーワードを作る。
  • ブレーンストーミングはWin-Winが大前提。そして、目標を明確化することが最も重要。そのためには、環境を設定することが大事。時間を区切る、メモを作る、マッピングする、対案なしに批判しない。
  • 三脚法の手順。一つの論文に3つの性格の異なるキーコンセプトを出す。正反対の二つと中間に成り立つ一つが理想。それぞれを3つのサブメーッセージに分割。3章構成にしてそれぞれに3つの節を立てる。1節のメッセージは一つに絞る。全文で9章27節の文章ができる。

2009/06/24

小塩隆士・妹尾渉(2003)「日本の教育経済学:実証分析の展望と課題」内閣府経済社会総合研究所ディスカッションペーパー No.63.

 本稿は、教育経済学の領域で行われた過去の実証研究を包括的にまとめたサーベイ論文である。本稿で得られる結論を先にまとめると、今後解決すべき問題として、教育成果に関する実証分析を蓄積するための、教育履歴情報を含む長期パネルデータの整備、教育成果に関する市町村間のクロスセクション分析、国立大学法人の経営学的分析、教育と社会階層・所得格差の関連の研究、の4つが今後蓄積されるべき実証研究課題としている。本稿は、リファランスのためのポータルで、詳細はFurther Readingsで検討。

 その他のメモ。

 ミンサー型賃金関数では、サンプルセレクションパイアスがかかることが広く知られている。

 教育の生産関数Ai = F(I, F, Q, P)+e(A:統一学力テストスコア・教育後の賃金、I:IQ等生来の能力、F:子供の家庭・社会環境、Q:学校で提供される教育の質、P:子供と一緒に脅威奥を受けるグループの特性・ピア効果、)の推定では、教育の成果に関係すると思われる変数をアドホックに説明変数に加えた回帰分析が行われ、理論的なモデルがあるわけではない。

 10年ごとに行われる社会階層と社会移動調査のデータがある。

2009/06/22

川野辺裕幸・前川公志(2005)「高等教育政策の転換と競争的資金供給」mimeo.

 本稿はCOE採択と特色GP採択が、どのような変数で説明できるかを計量的に分析した実証研究論文である。

 COEの採択分析では、COE採択数を、博士課程入学定員、特色GP採択数、科研費配分額、偏差値、他大学学長の研究評価、旧帝大ダミーへ回帰するOLS推定を行う。他大学学長の研究評価の詳細は朝日新聞社の大学ランキングを使用している。この分析で最もCOE採択を説明する変数は、博士課程入学定員という結果が得られる。科研費配分額以上に説明力を持つ点が興味深い結果である。

 特色GPの採択分析では、採択か否かを、COE採択数、国公立ダミー、大都市圏ダミー、学部入学定員数、修士入学定員数、博士入学定員数、科研費採択数、研究評価学長数、教育評価学長数、偏差値で説明するプロビット推定を行う。ここでは、博士課程入学定員が負の効果を持つが、科研費採択数が正の効果を持つ。特色GPの採択確率には、研究実績が説明するという点が興味深い結果である。

意見を通したいなら翻訳しなさい

会社は、人為的につくりだした極めて不自然な空間だ。
そういう不自然を承知で、チームで分業するからこそ、個人が一生かかってもできない規模で、社会に働きかけることができ、すばらしい経済効率で稼ぎ続けることができる。
だから、「会社」という道を選んだ以上、「言葉が通じない」ということは、実力に関係なく起こり続けるのだ。
キーワードの明確な定義と、相手側の論理構成に置き換えて話してみること、通じないときは、この2つを試してほしい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090619/198111/

2009/06/18

速水敏彦(2006)『他人を見下す若者たち』講談社現代新書

 本書は、心理学者による現代の若者の行動に関する考察をまとめたものである。速水先生がベストセラーを書いていると知って、読むことにした。
  • 自尊感情は過去の自己経験を踏まえたものであるのに対し、仮想的有能感は過去の自己経験に基づかず、自分の将来の適応のために自動的・無意識的に発生する。
  • 他者評価と自己評価は相反する方向に作用する。人間は本来常に自分を高く評価したいので、人は自分よりも優れた人物よりも劣る人物に関する情報を求める。この傾向が下方比較。
  • 真の自己肯定感は、親しい人間関係にある周りの人たちから、承認されて賞賛される経験を通じて形成されることが多い。人間関係が希薄化することで、他者軽視行動が多くなる。
  • 対人スキルの劣る者ほど、メールに頼るコミュニケーションを図ろうとする。
  • 仮想的有能感を持つ人の特徴は、(1)共感性が低い、(2)友人関係が狭い、友人が少ない、(3)友人関係あるいは家族関係に不満がある、という傾向がある。
  • 自尊感情は、自分を非常によいと感じることではなく、これでよいと感じること。ありのままの自分を価値あるものとして尊敬できると、自尊感情は高い。
  • 青年は高い理想を尺度として他人や一般社会を眺め、それと比べて現実の他人の能力や社会があまりに低級で汚れているのを感じ、それらを軽視する。
  • 昔の子供に比べて今の子供は、怒りやすく、悲しみにくく、喜びにくい、感情を表面に出さなすぎる、しかし文章にはできる。子供が不快感を感じなくなった、あるいは親が不快感を感じさせなくなった。
  • 一度自分の非を認めると、その後一貫して弱者の立場に立たねばならないと考えて、謝れない子供も親も多い。
  • 高校・大学進学で最近の生徒は自分の現実の学力とはかけなはれた水準の大学を志望する場合が多い。
  • 高校中退者は、これまでの学習経験から、他の人と違った才能を仮定する。現代は、誰もが自己肯定感を求めている。

2009/06/17

Cosgrove, E.(2006)"How PBL Fullfilled its Promise?" 東京大学医学教育国際協力研究センター客員教授セミナー

 本報告は、PBLによって得られるアウトカムが、従来の伝統的カリキュラムと比較して優れているという証拠がない、ということを示す報告である。

 PBLには有用な点があり、(1)PBLで学んだ学生は自校を高く評価する、(2)課題に対する学習者の内的な興味をかきたてる、(3)自主学習に必要なスキル修得に役立つ、(4)PBLで培われた自主学習スキルは10年以上保持される、等である。また、PBLが特に有効な学生もおり、女子学生、中高年者、入試成績の高い学生、社会的マイノリティとされる家庭で育った学生、に有効と考えられている。

 一方で、PBLのマイナス面があることも見なければならない。これがあるから、米国での普及度も高くならないと考えられる。
  • 学生はどの情報が有用か、関連があるかを判断する能力に乏しく、調べすぎたり、ほとんど調べられなかったりする
  • 教員の時間とパワーを消費する
  • 教室、コンピュータ、図書等いろいろな資源が必要
  • 学習目標が明確に示されないため、学生は隠されたテーマを探さなくてはならない
  • 文脈の中で学んだ概念を一般化することは、学生にはむずかしい
  • 多様な背景を持つ学生の中には、PBLに求められる文脈を経験上持たないものがいる
本報告では、PBLの長所を認めながらも有効ではないと主張する。PBLが問題解決スキル獲得に優れているという証拠がないからである。シェフィールド大学での大教室PBLでは、2名で22グループを指導する場合と、各グループにファシリテータ1名がつく場合で、同じ学習目標・評価項目の授業を行うと、学習成果で両者に差がないことを示している。

2009/06/13

藤村正司(2001)「大学教員の所得関数の計測と昇格」『大学論集』vol.32, pp.117-130.

 本稿は、日米の大学教員の個票データを使用して、昇進確率と所得を属性等の変数へ回帰する分析を行う実証研究である。本稿の分析のカギとなるのが、1992年に行われたカーネギー調査という調査から得られた国立大学7校963人、私立大学12校880人の教員のデータである。

 教授を1、助教授を0とするロジット回帰で、勤続、外部勤続、女性D、研究大学D、単著数、編著数、論文数、研究評価Dへ回帰すると、日本では勤続年数の効果が大きく、国立は勤続、私立は外部勤続の効果が大きい。研究大学では昇進が遅くなる。

 大学からの総収入/17を、勤続と2乗項、外部勤続と2乗項、移動回数、研究大学D、教授D、助教授D、女性D、医学分野D、著書数、編著書数、論文数へ回帰すると、やはり日本は勤続の効果が大きく、国立より私立の方がその効果は大きい。また、国立の研究大学では博士課程手当分の収入上昇がみられる。

 同様に、大学以外の学術活動からの収入+学術活動以外の仕事からの収入を回帰した結果では、日本では単著数が多いほど大きく、また国立では医学分野であることが高い収入につながっている。

2009/06/05

伴信太郎・佐野潔(2002)『臨床の場で効果的に教える』南山堂

 本書は、臨床医が医学生・研修医を効果的に指導できるようその手引きをまとめたものである。

教育とはコミュニケーションであり、そのためには、次の7つのポイントが重要である。
  • 教育の雰囲気
  • 教育のコントロール(進め方・進度・課題)
  • 目標の明確化
  • 理解と定着化の促進
  • 評価
  • フィードバック
  • 自己学習の促進
そして、それを指導する教員には、6つの役割がある。
  • 専門家
  • 権威者
  • 自分の専門領域の面白さを伝える
  • 理想像を体現する
  • 学習の促進者
  • 一人の対等な人間
医学生や研修医は大人であるから、成人学習の原則に従わなければならない。
  • 成人は学習したことをすぐに実践したがる
  • 成人は知識の詰め込みよりも概念や原則を学びたがる
  • 成人は自分自身の学習目標を立てることを好む
  • 成人は自分の行為を評価するのに役立つフィードバックを好む
さて、教育で難しいのがプラス・マイナスのフィードバックの与え方であるが、ここでは3つの特徴を指摘する。
  • フィードバックは評価的ではなく、描写的
  • 可能な限り具体的
  • タイミングよく(=イベントの直後)
1点目は機器がうまく使えないとき、評価的には「君はずいぶん不器用だね」、描写的には「君が粗雑に挿入しようとした時、患者はかなり痛がってましたよ」。2点目は「君は患者の不安な気持ちに気を配っていたね」より、「君が患者の良性の心雑音と父親の心臓疾患の違いを説明したことで、患者の言葉に出さなかった不安を取り除いたようですね」。

学習者の独立性の度合いと能力には、相関関係があると考えられる。よって、能力の低い学習者には依存性を保ち、高い能力の学習者に対しては独立させる教育方針が望ましい。学習者は過剰な自立を求められると「不安」を感じ、過剰な依存を求められると「欲求不満」になる。