チェイト,R.・ライアン,W.・テイラー,B.(2020)『非営利組織のガバナンス』英治出版
- ガバナンスとは「組織の全体としての方向性、有効性、監督機能、説明責任が果たされるようにするためのシステムやプロセス」である。
- ガバナンスとリーダーシップは、成功する組織の陰と陽である。ガバナンスなきリーダーシップは、専制、不正、個人の縄張りを生む危険性がある。リーダーシップなきガバナンスは、萎縮、官僚主義、無関心を生む危険性がある。
- そうしたガバナンスを理解し実践する3つのフレームワーク(受託、戦略、創発)がある。ガバナンスは組織の価値・インパクト向上のためにあるという本質的な意義に立ち返り、ボードが思考し、活動するためのマインドセットを3つに整理した。
- 効果的なガバナンスとは、状況を振り返り「センスメイキング」(行動のあとに思考して過去の出来事を理解し、新しい意味を見出す力)する能力が理事会にあるかどうかにかかっている。
- 理事が、受託、戦略、創発の全てのモードで能力を発揮する時、リーダーシップとしてのガバナンスが実現する。
- 3つのモードは全て同等に重要。
- タイプ1:ガバナンスの基礎を形成する
- タイプ2:戦略に関わり、優先順位や方向性を決め、資源を振り分ける。タイプ2なしに、ガバナンスは力も影響力も持たない。
- 多くの理事が無力なのは、彼らがただ役割について「混乱している」からではなく、自分たちの役割に「満足していない」からで、やりがいが感じられない仕事だから、成果も上がらない。
- 理事会の公式な仕事の大半は、たまにしか発生しないという事実を念頭に置いている人はほとんどいない。CEOの採用や解雇は常時ないし、ミッションに関する重要な問いも常に持ち上がるわけではない。
- →これでは退屈なので、多くの組織が必要以上に戦略構築の役割を理事会に持たせ、興味を引く戦略的問いをできるだけ多く議題に盛り込むようになった。
- →そのうち、理事も職員も「会議開催」と「ガバナンス」を同義だと思い始める。
- →一方で、決定的に重要なことはほとんど持ち上がらないため、理事は「私は何の役に立っているのか」と疑問を抱くようになる。
- 公式の仕事には、そもそも満足感を得られないものがある(秩序と監督)。非公式の仕事には、重要だが楽にこなせてしまうものがある(存在自体が運営陣の気を引き締める)。非公式な仕事には、やりがいはあるが周りから歓迎されないものがある(現場の業務に関わる)。
- 改革のための問い:私たちは何をガバナンスしているのか?(×ガバナンスとは何か?)
- 社会学者の「メンタルマップ」の研究では、近所の地図をどう描くかに基づいて人々を理解する。
- リーダーシップとしてのガバナンスは、創発モードで動くことだけに終始するわけではない。現代の組織において非常に重視されている運営者のリーダーシップと同様に、ガバナンスにおいても、各モードを習得するだけではなく、いつどのモードで行動するかの判断も大切になってくる。だから、リーダーシップとしてのガバナンスは複雑な活動であって、規定された任務だけ実践してできるような代物ではない。良い仕事は「機会と能力とのバランス」で決まる(チクセントミハイ)。
- タイプ1のガバナンスの目的:
- 資源の流用・浪費・悪用を防止すること
- 団体のミッション達成のために資源を効果的かつ効率的に配分すること
- 団体のミッションを守り、目的から気づかぬうちに逸脱したり、目的が承認なしに変更されないようにすること
- 理事に団体の利益だけを考えて動くよう求めること
- タイプ1のガバナンスの元になっている組織観(メンタルマップ)
- 官僚制度とプリンシパル・エージェントモデル
- 組織は閉鎖的なシステムと見なされ、外部環境からの影響を考えずに自由に目標を設定・追求できると考えらる。(理事会は、普段は問題がないか組織内部に目を向け、外部に目を向けるのは主に財務上の目的があるとき。)
- 4つの誤った組織観がタイプ1ガバナンスの前提になると、大きい代償を払う。
- 非営利組織を官僚組織として捉えてしまう
- CEOをただの代理人として捉えてしまう
- 理事会は名実ともに所有者だと捉えてしまう
- 組織を閉鎖的なシステムとして捉えてしまう
- タイプ2ガバナンスへのメンタルマップの移行:
- タイプ1のやり方でタイプ2の仕事をする
- 戦略に官僚主義を持ち込む。財務と同じやり方で戦略を扱う→理事会にかけられる計画のほとんどは、重要な事柄が既に考盧され解決された後(代替案やリスクなどは、省略されているか要約されている)。
- 戦略計画が行動のための青写真というよりも、理想を描いたものにすぎないと感じる6つの問題
- 現在より未来に注目し、都合の悪い現実に触れない。「教職員が唯一否定できない前提が現状である」。
- 組織の構造や物事の進め方を具体的にどう変えなければならないかまで明記している計画がない。意思決定と実行との間には一貫したパターンが必要(人員、施策、事業、予算、報奨、設備投資は、計画と一致していなければならない)。
- 戦略がない(何がその目指す成果を生むのか、何が競争上の優位性を高めるかが精査されていない)。
- 計画は事前に職員を巻き込んでお膳立てされており、提案が理事会で取り消されたり修正することをCEOが嫌がると思ってしまう。
- 予想外の出来事で計画が無意味になると、理事は幻滅する。
- 非営利組織のプロセスは複雑で成果が見通しにくい。
- タイプ2モードのガバナンス
- 全体を俯瞰する問いを出す(我々や他の大学の「ビジネスモデル」は、今後20年間有効か?もしそうでないなら、何が変わらなければならないか?その変化を実現するために、我々は優位な立場にあるか?)。
- 理事会の構造を、戦略的優先事項に合わせる。タスクフォースや臨時の作業グループを活用して、理事が他の関係者とともに、戦略上重要で、期限が決まっており、結果を出さねばならない案件を扱う。
- 中身がよく分かっていない認知プロセスが先にあって初めて、道徳的コミットメントが生まれ、それをミッション策定プロセスにおいて明文化する。創発的思考の認知プロセスで目標が生まれたあとに戦略が立案され、課題の原因分析が生まれたあとに問題解決プロセスが始まる。
- 組織は戦略を策定したり問題を解決したりする前に、認知的な生産物である「意味」や「理解」を作り出す。
- コミュニティポリシングの提唱者も警察の新しい運営管理の提唱者も、同じデータを使ったが、異なる意味づけをし、それが異なる戦略を導いた。
- センスメイキングは主観的で選択肢が多いからこそ、大きな力を持っており、ガバナンスにおいても強く求められる。
- →どうやって物事がちがて見えるようになったかが重要。これは3つの段階がある。
- 手がかりやヒントに気づく:人は一部に注目したり強調することで意味のある判断を下す。
- フレームの選択と活用:人は職業上使い慣れたフレームを通して物事を見る。フレームは価値観にも基づいている。意識的に異なるフレームを通して状況を見ることで、センスメイキングの選択肢を増やせる。
- 振り返って考える:組織の過去を振り返って以前は気づかなかった新しいパターンを見つけて、新しい戦略を提案する。
- ガバナンスとしてのリーダーシップ
- 「リーダーの最初の責任は、現実を定義することである」「リーダーとは意味を付与する者である」
- リーダーは、問題を心に残る言葉でフレーミングしたり、感覚に訴える生々しいイメージを使ったり、意味深長なメタフアーを使ったりする。このようなリーダーの振る舞いが、人々の認識を形づくり行動を促す。
- 優秀なリーダーは、単に自らの創発的洞察力で組織に貢献するだけではなく、周りの人を創発的思考に関わらせる。
- リーダーの助けを得て組織でフレーミングする適応課題は、「価値観、信念、行動における変化」を伴うので、必ずと言っていいほど意見の対立を引き起こす。
- タイプ3のメンタルマップを使う:非合理的で創発的な組織には、3つを備えたメンタルマップが必要。
- 目標は多くの場合、反対されていなくても、暖昧なものである。
- 未来は不確かである。
- 意味づけが重要である。
- 理事と運営陣は、受託的・戦略的・創発的思考が求められる三重らせんに遭遇する。
- ヴァンダービル卜大学の、全国ランキング上位を目指すための取り組みとして、ユダヤ人学生数を増やすための施策。
- タイプ1のガバナンス:これは合法か?この対策、教育課程、職員、設備投資にかかる経費はいくらか?
- タイプ2のガバナンス:この施策はうまくいくか?我々の比較優位と比較劣位はどこにあるか?この市場における主要な競合相手は誰か?他の関係者はどう反応するか?ユダヤ人学生はここで快適にやっていけるか?
- タイプ3のガバナンス:我々は固定観念の強化に寄与しているのか、多様性を推進しているのか、それともその両方か?これは自己利益のために他者を利用しているのか、それとも双方に利益をもたらすか?大学のこのような「エリート戦略」は、大学のコア・バリューと一貫しているか?我々はなぜ大学の「序列」の上を目指すのか?
- 組織の境界で活動する(歩き回るマネジメント、Management by wandering around)
- 私立大学の理事会と学部長の5か年戦略計画の立案
- 理事と学部長が相手グループの立場で、4つの問いを考える。
- 理事たちが理事会に加わることに決めた-番の理由は何か?
- この大学の理事として、最もやりがいがあること・困難なことは何か?
- 理事会について何か1つ変えられるとしたらそれは何か?
- あなたがより効果的に仕事をするために理事会には何ができるか?
- お互いに何を理解して何が分かっていないかを学ぶ。その後、理事と教授の金剛チームで、学生、教授、保護者、卒業生の立場から見た成功する大学教育の鍵を議論する。
- →より鋭いセンスメイキングができるようになる。
- ほとんどの理事は、今後3〜5年間の組織の戦略的優先事項を正しく列挙することができる。一方で過去3〜5年間に起きた組織の成功や失敗を説明できる理事はほとんどいない。
- 過去を振り返り、成功や失敗に問いかけることで、新しい洞察が得られる(大学が奨学金を増やしていないのに、受験者の人数が著しく増加し、質も劇的に向上したのはなぜか?)。
- 創発的な議論を促すために、あえて会議の基本ルールを中断する。4つの方法で思考を促す。
- 行動が目標を導くのであり、その逆ではない、という前提に立つ(予算からミッションについて何が明らかになるかを問う、どの候補者が採用委員会に気に入られてそれはなぜかを見る)。
- 事実に反することや仮説を検討する(もし政府からの助成金が、自分たちで自由に管理できる財産から来ていたらとしたらどうだろう?利益にはなるが我々にふさわしくないことは何か?)。
- 直観を現実として扱う。
- 触媒となるような問いを投げかけ、創造性や探求心を引き出す(この団体の特徴を最も良く表す3つの形容詞、あるいはフレーズは何か?、自分で団体のランキングを作れるとしたら、この団体が一位になってほしいと思うのはどういうランキングだろうか?)。
- 非営利組織は資産を自ら築くのではなく外から獲得してくるのが一般的。
- 正直で礼儀正しい理事は、それ以上正直で礼儀正しくなることはない。有能な弁護士や銀行家が今以上に著しく有能になることもない。男性や女性、あるいは黒人や白人であることは、時間とともに増すものではない。
- 理事会資本の4つの形態
- 組織は前例の多さに安心感を覚える。多くの理事は、潜在能力が発揮されていないと思っているが、理事会や職員がガバナンスに下手に「手出しする」のをためらっている。
- 古い習慣を壊す新しいやり方を学ぶ必要がある。
- ガバナンスの各モードにどれくらい時間を使うかを、あらかじめ割り当てないようにする。
- 特定モード、特に創発モードを非生産的に使いすぎない。
- ガバナンスの目的を問う
- タイプ1=コントロールする仕組みとしての理事会
- タイプ2=方向性を決める理事会
- タイプ3=意味を形成する理事会
- 理事会の価値を問う
- 理事会を必要としない仕事は何か?理事会を必要とする仕事は何か?今の理事会にしかできない仕事は何か?
- ガバナンスにおける満足感を問う
- 実際に何に一番時間を使ったか?
- どの仕事が組織の成功やミッションのために最も重要か?
- 理事会がやらないか委任すると決めたらなくなって一番寂しい仕事は何か?