2008/07/09

Ono, Y. (2006) "Fallacy of the Multiplier Effect: Correcting the Income Analysis," ISER Discussion Paper No.673.

公共事業の合理性の根拠で、公務員試験の問題にも堂々と出される乗数効果。だが、例えば道路に穴を掘って埋めるだけの工事で国民所得が上がるような魔法は本当に存在するのか。ケインズの議論に真っ向から勝負するおもしろい論文に出会った。

本論文の結論は、意味のない公共事業は失業手当の配分と何ら変わりがないというものである。

どこにでもあるマクロの教科書には、国民所得の決定式として次式が示される。
y = c(y-t+z) + g + i
この式から、dy/dg = 1(under z=0), dy/dz = 0 (under g=0)がわかるが、これは、公共事業は常にその価値に等しい国民所得上昇効果を持ち、失業手当は所得の再分配だけで所得を上昇させないという意味だ。

ここで著者は鋭い指摘をする。そもそもの誤解は、政府支出=その生産物価値と捉える点である。民間部門は、生産物を売って所得を得る。その値は c + i に等しい。よって、可処分所得は
yd = c + i + g + z - t
であり、cはydに依存するから、c = c(yd)である。

一方で、国民総生産は総消費、総投資、「公共事業の価値」で決まる。ここがポイントで、公共事業の支出額は費用であって生産ではない。実際の生産は支出に効率係数θを掛けた値だろうと考える。すなわち、全く無意味な公共事業ではθ=0となる。すると、総生産は
yv = c + i + θg
で表せる。

あとはパラメータの特性を調べるだけ。
yd = c(yd) + i
が得られるから、dyd/dg = 0, dyd/dz = 0 であり、政府支出も失業手当も所得を変化させないことがわかる。

yv - θg = yd
の関係から、yv = c(yv-θg) + i + θg であり、dyv/dg = θ, dyv/dz = 0 が得られる。
公共事業の価値は効率性θで決まる。意味のない公共事業が、効果を持つことはない。