2007/12/25

Nawata, K. (2001), "Estimation of the Female Labor Supply Models by Heckman's Two-Step Estimator and the Maxmum Likelihood Estimator," manuscript document.

 本論文の要旨は、タイプIIIのトービットモデルでよく用いられる推定法である、ヘックマンの2段階推定量は効率的でないという点に尽きる。通常、このモデルでは尤度関数が複雑になるため、ニュートン法などのアルゴリズムでは尤度関数が最大化できない(最大値へ収束しない)ことがよくある。そのために、推定の容易なヘックマンの2段階推定を用いるわけだが、これも実はかなり昔からその問題点が指摘されており、真のパラメータと異なる推定値を得るケースも指摘されている。

 そういう意味でこの論文のメッセージは、ややいまさらな感があるが、新しい点はモンテカルロシミュレーションにより、ヘックマンの2段階推定量と最尤推定量の歪みや効率性を具体的に示したという点である。また、最尤推定量を得る際の数値計算の方法として、自身が提唱している(?)スキャニング法というアルゴリズムを用いている。

 通常のタイプIIIトービットの尤度関数であれば、TSPとかでも十分計算可能と思われるが、この論文では労働供給関数を推定しているために尤度関数が複雑になりすぎ、このようなアルゴリズムが必要になっている。しかし、Greeneの20.3.3に書いてあるような、パラメータの置き換えでこの問題は回避できないのか?自分で適当な計算でもしてみて後日確かめてみることにする。

2007/12/23

Nelson, F. (1984), "Efficiency of the Two-Step Estimator for Models with Endogenous Sample Selection," Journal of Econometrics, pp.181-196.

本論文はサンプルセレクションモデルにおいて、ヘックマンの2段階推定量と最尤推定量の効率性の違いについて検討するものである。数値計算は実際のデータではなく、シミュレーションによって計算し、推定された分散比較を行っている。

一点だけ注意したいのが、xとλ(z)の相関を測る度合いとしてR2を考える点で、本論文ではR2が外生的相関(回帰式の説明変数(外生変数)とセレクションを決める外生変数の相関)、ρをが内生的相関(セレクションを決定するrandom componentと従属変数の相関)を表す尺度として考慮する点である。

結論は次の通りである。OLS、Two-Step、MLEの効率性は、外生的相関と内生的相関で決まるといえる。
  1. OLSはどちらも存在しなければバイアスはないが、二つの相関とともにバイアスが大きくなる。
  2. Two-Stepは内生的相関とは比較的安定的であるが、外生的相関とともにバイアスが大きくなる。
  3. endogenous sanplingのTwo-Stepテストの検定力は、外生的相関とともに落ちる。
  4. MLEの分散は内生的相関とともに急速に小さくなる。
  5. MLEの分散は、内生的相関があるときには外生的相関があってもあまり大きくならないが、内生的相関がないときは外生的相関とともに大きくなる。
  6. MLEのendogenous sanplingの検定力は、外生的相関によってのみ低下する。

2007/12/19

大竹文雄(2005)『経済学的思考のセンス』中公新書

 本書は、インセンティブの観点から社会を観察し因果関係を見つけ出すというメッセージの経済学紹介文献である。経済学というと株とか金融とか需要曲線とかがすぐに連想される。しかし、このインセンティブこそが経済学分析の肝であり、そこが面白さと魅力なのだが、専門家以外にはなかなか知られていない。本書は、一般向けにこのことを示した良書である。
  • 経済学的思考法とは、人々のインセンティブを重視した意思決定メカニズムから考え直すこと。
  • 格差は努力を促すために必要だが、格差をつけすぎると運による差が努力の差と間違うリスクが大きくなり、危険回避的個人は運による格差を小さくすることを望むが、格差がないとやる気を失う。リスクとインセンティブのトレードオフ。
  • 時間非整合性の問題を解決するには、コミットメント(最初に決めたことを変えないこと)が必要。アメリカの肥満をこれで説明できる。
  • プロスポーツのように一人勝ちが必ずしも最大所得とならないのがルイス=シュメリングの逆説。
  • 成果主義はどのような仕事のやり方をすれば成果が上がるかについて採用側がわからない場合、授業員の仕事ぶりを評価することが難しいが成果の評価が正確にできる場合、に行うべき。
  • 自信過剰説:人間は成功確率が30%を切ると危険愛好的に、80%を上回ると危険回避的になる傾向がある。よって成功の可能性が低いものについては、その成功確率を過大評価する場合がある。
  • トーナメントでは、参加者の能力差が小さい時に賞金格差を大きく、能力差が大きければ賞金格差を小さくするする方が、参加者の努力をより引き出せる。
  • 日本の長期雇用慣行の労働者比率は、もともと20~30%。
  • 賦課方式年金が成り立つのは、損をするか得をするかわからない状況で、その不確実性に対処するために保険契約を結ぶ場合。人口成長率・経済成長率が長期にマイナスになることが予測されると、公的年金は損がわかった投資を強要することになり賦課方式は成り立たない。
  • 予想外に寿命が延びた70歳以上世帯への所得移転は合理的だが、生まれたタイミングで年金の収益率が大幅に異なる中で行うねずみ講には参加できない。少子化でねずみ講を維持するには、収益率の引き下げか大量の移民受け入れしかない。既得権を崩すには、国民年金を未納にして公的年金破綻の時期を早めるという行動がある。
  • 習慣形成理論:同じ額を受け取るとしても年功型を選ぶ人が多い。
  • 損失回避:一定額の得をすることによる満足度の増え方よりも、同額の損をすることによる満足度の低下の方が非常に大きい。確実に小額の損ができずに、大幅な損をする、人間は損切りができない。
  • 従業員の危険回避度が高いなら、賃下げ・ワークシェアリングができ、損失局面で危険愛好的になる場合は人員削減を受け入れやすい。
  • 引退後の所得のばらつきが、見かけの不平等度を増加させている場合がある。
  • 恒常所得仮説(消費は将来にわたり期待できる平均的な所得に左右される)によれば、消費格差を見ることで不平等が見えやすくなる。

2007/12/16

勇上和史(2005)「都道府県データを用いた地域労働市場の分析」『日本労働研究雑誌』no.539, pp.4-16.

 都道府県別失業率の維持転換の相関は高く、失業の地域的パターンは安定的。この硬直性をもたらす要因の1つが、労働移動を通じた市場の調整機能の弱さ。90年と00年の国勢調査から、失業率の都道府県間格差を、

 u = a + bX + cD + e

という線形失業率関数でとらえる。uはグループi(居住都道府県・性別・年齢階層・学歴の労働力状態)の平均失業率、Xがグループの労働需給属性(女性・年齢階層・学歴の各ダミー・グループ内の産業別就業者構成比)、Dが居住都道府県ダミーを表す。都道府県ダミーのばらつきで都道府県間失業率格差を見る。

 労働需給構造をコントロールすると、地域間格差は大きく縮小する。しかし、近年では地域間の実質賃金コストの格差と、受容減退の地域差による地域間格差拡大が見られる。要するに、地域別の産業構造の違いで地域間格差のばらつきは説明できるが、不況期には地域別の需要減退差がもたらす拡大が見られるようになる。失業率が高い地域ほど、求職意欲喪失効果は大きく、近年では特に若年層でその傾向が強くなる。

2007/12/13

内閣府経済社会総合研究所(1998)「エコノミストによる教育改革への提言」教育経済研究会報告書

 長期的には、公的規制は撤廃し、公的補助は研究プロジェクトへの補助と奨学金に重点を移し、大学の形態によらず競争条件を同一として「良い教育を提供する大学では、消費者がそのために必要なコストを負担する」という他のサービスでは当然の関係が成り立つようにするべき。

 能力に差のある個人からなる社会があり、個人は費用と便益に応じて高等教育需要を決定する。高等教育は選抜なしに需要に応じて供給されるとき、国立大という均質な教育を均一授業料で供給する機関と、私大という質の異なる教育を費用に応じて供給する2つのタイプの高等教育機関があるとどうなるか。政府が、授業料で賄えない国立大の費用と、私大を選択する個人への補助金を払う。

 効用関数を、u = √nq - p 、留保水準をu0 = y0 、nが個人の能力、qが教育の質、pが授業料、y0が高卒所得とする。国立を選択した場合の効用をu1 = √nq1 - p1とする。私大の授業料をp2 = 1/2q^2 - s、sは学生一人当たり政府補助金とする。私大を選択した場合の効用はu2 = max {√nq2 - p2} s.t. p2 = 1/2q^2 - sとする。個人の能力がnlからnhまで分布するとすると、個人は高卒・国立・私立のなかから効用が最も高い選択をする。政府の教育予算Tは、T = q1F1 + sF2 - p1F1とする。この状況下では、私大の質の需要はq = √n、効用はu2 = 0.5n + sに決まる。

 このとき、国立大の授業料を下げることは質を上げることになり、私大補助を増やすことは私大選択者を増やす。国立選択者の効用を下げずに、私大補助を増やすことはできるか?政府予算制約を全微分すると、能力の分布が狭い時に可能かもしれない。このモデルでは、国立の質が一定という仮定が置かれているがどうなのか。

2007/12/11

Mueller, R. and Rockerbie, D. (2005) "Determining Demand for University Education in Ontario by Type of Student," Economics of Education Review, vol.24, pp.469-483.

 本稿は、大学教育の需要関数を推計するというものであるが、オンタリオ州の大学を6つのグループに分け、それぞれのグループへの志願者数を、生徒の男女、出身機関別に回帰分析を行うというものである。需要関数は、
 志願者数=f(ランキング、地域の実質平均所得、実質学費、実質失業率、実質高卒初任給、実質利子率)
というものである。これだけでいいのか。

2007/11/25

Moffitt, R. (1999), "New Developments in Econometric Methods for Labor Market Analysis," in Ashenfelter, O. and D. Card, eds. Handbook of Labor Economics, Vol. 3, Chapter 24, pp.1367-1397.

 本稿は、経済政策分野で使用されてきた計量経済学ツールに関する整理を行うという包括的サーベイ論文である。

 質的選択モデルやセレクションバイアスなどは、労働経済のアイディアから発展した計量経済学の分野である。このツールを用いる研究は爆発的に蓄積されたが、ツール自体はどれも1986年以前に開発されていたものである。しかし、今後増えてくと思われる(?)シミュレーション、ノンセミパラに関する研究はほとんどない。労働経済学では全体的に、より制約が少なく、よりロバストなテクニックを使う傾向にある。


Binary choiceについて

 linear probability model (LPM)で確率が0~1に入らないという問題は、致命的ではない。 データの平均周りではyのフィットは0-1区間に入り、平均周りでは予測などにおいても問題とならない(本当にそんなことを言っていいのか??)。LPMを用いる理由は、真のモデルの線形近似、すなわち、

 y = E(y|x) + u = F(Xβ) + u

の非線形関数F(Xβ)の線形近似であると考えるためである。LPMは、∂E(y|x)/∂X をダイレクトに計算すると考えることができ、βを推定するというより、βとFの組み合わせを推定するものといえよう。関数のパラメータ(βそのもの)よりも、y=1の確率の限界効果に興味があるなら、LPMは選択肢として入いれてよい。ただし、線形近似によって落とされた非線形性を考えるならXの高次の項を入れることも考えられるが、ノンパラ回帰を行うことになる。kernel regeressionでのyのXへの回帰は、yがバイナリであっても使える。しかし、ノンパラ回帰はほとんど行われていない。その理由としては、ソフトウェアに入っていないことも理由だが、説明変数が多いと計算が重い、サンプルサイズが大きいと収束が遅い、bandwidthの選択が推定に大きく影響するが適切なbandwidth選択のルールがない、などのためだろう。

限界効果よりもβに興味があるなら、プロビットやロジットを使うが、いくつか問題が指摘されている。1つは、潜在変数が正規・ロジスティック分布をするという制約がみたされないとβの推定値は一致性がないこと。ただ、分布がunimodalなど若干の乖離なら推定に大きく影響しないと、これまでの研究で示されている。2つめはheteroskedasticityで、これがあるとやはり一致性がない。この対処法としては、1つはheteroにパラメトリックな形を入れて( Var(e|X) = (Xδ)2)尤度関数をたてる。しかしながら、もっと根本的な同定問題がある。yの期待値は、(1)Fが正規CDFでパラメータがXと独立に正規分布、(2)インデックスがパラメータに関して線形という2つの仮定に依存している。これらがみたされないとなると、Xで条件付けたyの期待値は、

 E(y|X) = F[h(X,β); X]

という(heteroのある)Xに依存するパラメータを持つCDFのFと、未知関数hで与えられる。誘導型ではhとFを分けることができず、問題を解決できない(Xの増加によるyの平均の増加が、潜在変数が変化したためか、Xの変化で誤差項の分布が変わったためかを区別できない)。このモデルは、適当な同定制約を課した構造型ととらえてもよい。しかしこうしたアプローチは得策ではない(たとえば、Xβの線形性を仮定することは線形性に吸収されない部分をすべてFに押し込めることになるし、推定技術も一般化されていない)。上のモデルで最も強い仮定は、uとXが独立(hetero がない)と仮定することだが、同定問題は残される。


Multinomial choiceについて

多値選択問題(multinomial logit)では主に、無関係な選択肢との独立性(IIA)問題がここ10年間議論されてきた。よく言われる例は代替的選択肢の問題だが、これは若干ミスリーディングで、IIA問題はもっと一般的に誤差項の相関問題、あるいはセレクションバイアスの問題ととらえるべきである。IIA仮定はjとj'を選んだサンプルだけを用いて一致推定ができる条件と考えてもよい。しかしこのsubpopulationが他のpopulationとシステマティックに異なっているなら、推定値にバイアスがかかり一致性を持たない。ではこのときどうするか。

1つの方法は、構造型での推定をあきらめ、誘導型で推定することである。誘導型では、選択肢jを選ぶ確率はXi、Zjだけでなくすべての選択肢に依存することになる。ただ、選択肢の数が多い、Zjの数が多いと、独立変数が多くなりすぎる。あるいは、各選択肢に個別にこのような推定を行うことは非効率でもある。しかし、Zがない、あるいは、変数Zの数が少なければ誘導型はfeasibleであり、yijをXi、Zjへ回帰させるLPMやNPが行える。ただし推定法の選択は、興味あるパラメータにもよる。IIA問題対処の2つ目に、最近多くなってきたネステッドロジット、GEVモデルがある。ただ、女性の労働参加などでは、通常労働するか否かとフルタイムかパートかは同時に決める問題であり、入れ子型と考えることには疑問がある。3つ目は、誤差項に相関を許した多値プロビットである。このモデルの問題は数値計算可能かという点だが、最近の研究では計算可能であることが示されている。

多値選択では未だmultinominal logitが主流である。シミュレーションツールがソフトウェアに組み込まれていないのも一つの理由だろう。しかしより重要な問題は、相関係数を同定する問題だろう。線形モデルでは方程式間の相関係数は残差のサンプル共分散から推定できたが、それが使えない。yijとyij'の共分散はゼロであり、個人は選択肢を一つ選ぶことで観測され、観測されない選択についての相関を見ることができないためである。


Censored regressionについて

女性の労働供給などでよく用いられるトービットだが、そのもろさがよく指摘される。1つは、homoskedasticityがみたされないと一致推定量とならない。2つ目は正規性の仮定がかなり強くきくことである。これらはプロビットやロジットでも同じことだが、yの条件付分布が切断正規に従うことを要求されるトービットでは致命的で、運用上はきつすぎる仮定となる。これに関連してノンパラを用いた改善を検討する議論があるが、以下とかぶるため次のサンプルセレクションで触れたい。


Sample selection biasについて

典型的なサンプルセレクションモデルは、εとvが平均0、分散σ2と1、相関ρの2変量正規分布に従う下で次のようなものである。

 y = Xβ + ε (I = 1)

 I* = Zδ + v (I = 1 if I* > 0, I = 0 if I* < 0)

このとき観測されたyについての条件付期待値は、θ=σρ、λ(Zδ) = f(Zδ)/F(Zδ)、Fとfは1変量cdfとpdfとして次の通り。

 E(y|X, I = 1) = Xβ + E(ε|X, I = 1) = Xβ + θλ(Zδ)

このとき通常よく使われる推定方法は、yとI*に関する式を最尤法で推定するか、I*に関する式をプロビットで推定し、得られたZδを用いて上の条件付期待値の式をOLS(WLS)で推定する2段階推定という2通りになるだろう。しかしこの手法はあまり使われなくなってきた。理由の1つは、λ(Zδ)はXと相関しやすく、βの推定量が不安定で頑健でなくなる(Nelson(1984)参照)。2つ目は、2変量の正規性に関する仮定が保証されず、特にXとZの同時性の下ではみたされない点である。3つ目は、1、2点目のような相関や分布の問題があるとセレクションバイアスの重要性をとらえられないという点である。2段階推定においては、vが正規分布に従いεがvと線形関係にあることさえみたせばよいため、2変量の分布の仮定を緩めたセミパラ推定で解決できる。さらに、vの正規性の仮定もεとvの同時分布がXとZと独立であれば緩められ、εの条件付期待値はZδ(つまりPr(I = 1|Z) = F(Zδ))のみに依存する形になる。

 E(y|X, I = 1) = Xβ + E(ε|X, I = 1) = Xβ + E(ε|v > -Zδ) = Xβ + h(Zδ) = Xβ + h'(p)

p = Pr(I = 1|Zδ)である、この式ではεやvについて何ら特別な仮定をおいていない。通常の2段階推定では、1段階目でZδかI=1の確率を推定し、これを入れて未知関数h(h')を推定する。こうした研究はいくつか行われていて、多くの研究が提唱するのは、I=1の確率をセミパラかノンパラで推定し、Zδやpを1段階目に得ておいて、これを代入して2段階目にh(h')をセミパラで推定するという方法である。また、セミパラとパラメトリックの折衷案として、2変量の分布を自由にしておきながら、パラメトリックな形を維持するというものもあり、比較的推定はしやすい。ただ、分布に関する仮定を置かないと、識別のためのexclusion restrictionが必要である(つまり、XとZに相関があるとβとh(h')を切り離せない)。

とはいうものの、こうした新しい手法に関連した研究はほとんど蓄積されていない。また、exclusion restrictionの問題についても研究を蓄積しなければならない。この問題はセレクションには影響するがyには直接影響しない変数を見つけるという、理論的というより実際上の問題だからである。

2007/11/23

Stadler, M. and R. Wapler, (2001), "Endogenous Skilled-Biased Technological Change and Matching Unemployment," manuscript document.

 本論文は、Acemoglu (1998)やKiley (1997)のモデルにマッチングモデルを組み込む形で拡張し、内生的経済成長の枠組みで、失業と熟練偏向的技術変化に関する分析を行うものである。基本的なセッティングはAcemoglu (1998)を踏襲している。

 この論文の上手いところは、雇用量をKiley (1997)の形を使って表現しているところである。しかし、結論として議論される問題は、主に、

 ln (ph/pl) = + ln{(1-d)/d} - ln(Qh/Ql) - ln(Nh/Nl)

に関連する。この議論はAcemoglu (1998)で議論される結果と同様ではあるものの、新たな貢献という意味ではそれほど重要ではない。従って、雇用に関する問題と分析しきれているとはいい難い部分がある。

 もうひとつの疑問は、家計の問題

 U(C) = ∫0∞ exp(-ρt) { (C1-γ -1)/(1-γ) } dt

に関して、予算制約は、

 dtG = rG + Iw - C

であるが、労働者タイプによってこれは変わらないのか? Iwは各家計の平均所得(代表的家計の所得?)を表すということだが。ここでは、このまま解いてしまって通常のKeynes-Ramsey Rule

 (dC/dt)/C = (1/γ)(r - θ)

を得てしまう。また、失業手当等は考慮されていない。Barro and Sala-i-Martin (1995)等を参照するなら、Gは研究開発部門の市場価値に等しくなるのではないか。内生的に成長する技術は2タイプあり、労働者の職場は分断されていて、各タイプの賃金が異なるので、予算制約が上式のように表すことができるのかが若干疑問である。

 しかし、Acemoglu (1998)の枠組みで雇用と賃金に関する分析を行う試みは注目に値するものであり、今後の参考にしたいと思う。

2007/11/20

Akerlof, G. and J. Yellen, (1990), “The Fair Wage-Effort Hypothesis and Unemployment,”Quarterly Journal of Economics, pp.255-283.

 本論文の基本的なアイディアは、労働者の努力水準が次式に従うという点にある。

 e = min (w/w* , 1 )

 どういうことかというと、労働者がFairと思う賃金水準(w*)があり、これをFair WageとかReference Wageと呼ぶ。そして、実際の賃金(w)がそれを上回るならば、Full Effor(e = 1)を供給する。下回るならば、部分的な努力水準しか供給しない。

 非常にシンプルかつ有用なアイディアであるが、このままでは使えない。実際には労働者がどうやってFair Wageを決めるのかを考えなければならない。本論文の中では、社会学的な視点から多くの事例を挙げて説明している。それはいいとして、その際には何よりも本論文で使われている例が参考になる。すなわち、例えば、同じ職場で働く別タイプの賃金との加重平均をFair Wageにするというものである。これはモデルによって、同じ産業、同じ部門、同じ生産工程など読み替えてよいだろう。本論での例を使うと次のように表せる。

 w1* = βw2 + (1-β)w1c
 w2* = βw1 + (1-β)w2c

 結局のところ、標準的な効率賃金仮説のモデルと同様となるといっていいだろう。この論文では、Fair Wage-Effort Hypothesis以外にもう一つ注目すべき点がある。それは、上式を用いたサンプルモデルにおいて、第1タイプには完全雇用が成立し、第2タイプには失業が発生することが示されることである。これは、本論で示される4つの補題から得られる。そして、Shapiro and Stiglitz (1984)のNo-Shirking Conditionのように、第2タイプにはFair-Wage Constraintが成立する。

 このアイディアは、2タイプで効率賃金モデルを考える際に、非常に有用であろう。

2007/11/18

Kiley, M. (1997), "The Supply of Skilled Labor and Skill-Biased Technological Progress," manuscript document.

 この論文も比較的アイディアはAcemoglu (1998)に似たモデルである。よくよく見ていくと、Barro and Sala-i-Martin (1995)のバラエティ拡大モデル(つまりChapter 6)を2タイプへ拡張したものであるといえる。従って、非常にスタンダードな結果が得られている。しかしながら、最近蓄積が進んでいるSkill-Biasedな技術進歩を内生化して分析するアイディアは参考にしたい。

 結論としては、Skilledの供給増加がSkilledへ偏向的な技術進歩をもたらし、Unskilledとの賃金格差を拡大させるというものである。

 やはり賃金は限界生産性で決まるため、雇用に関する分析ができない点がこの手のモデルの弱点であろう。Acemoglu (1998)の方は、代替の弾力性が十分に高いときには、Skilledの供給増加が賃金格差の上昇をもたらすという結果を示している。ベンチマークモデルとして重要であるものの、逆に標準的すぎるような気もする。

2007/11/15

Grossmann, V. (2000), "Skilled Labor Reallocation, Wage Inequality, and Unskilled Unemployment," Journal of Institutional and Theoretical Economics, Vol.156, pp.473-500.

この論文は、アイディア自体はAcemoglu (1998)に非常に似ている。しかし、この論文では、最終財生産はSkilled、Unskilledの両タイプを使い、中間財生産はUnskilledのみ、R&DはSkilledのみを投入するというセッティングがポイントである。

そこで得られる結論が、R&D部門へSkilledの配置を高めることが、Unskilledに対する労働需要を減少させるというものである。またこれに伴って、賃金格差の拡大も発生する。この手のモデルでは、常に完全雇用が成立する状況で分析されてきたが、本論文ではFair-Wage Hypothesisを導入することにより、(Unskilledの)雇用に関する分析も行っているところがポイント高い。なぜこの仮説を導入するのかはよくわからないが、思うに2タイプの労働者がいる状況でEfficiency Wageを導入してしまうと分析が複雑になるが、Fair-Wage Hypothesisの下では、Skilledに完全雇用が成立し、Unskilledのみに失業が発生することになり、分析が容易になるためだろう。

このモデルは非常に参考になるので、このアイディアを生かそうと思う。

2007/11/12

Acemoglu, D. (1998), "Why Do New Technologies Complement Skilles ? Directed Technical Change and Wage Inequality," Quarterly Journal of Economics, pp.1055-1089.

 本論文は、スキル偏向的技術進歩と労働市場の関係について、理論的に整理した研究である。この分野はには膨大な実証研究があるが、理論的な研究は比較的少ない。このテーマ自体は、大変古くから行われているが、最近の労働市場の特徴に注目した研究として、本論文は興味深い。

 この論文では、内生的経済成長の枠組みで分析を行う。技術革新の成功確率を入れたりしてしまうのは、ちょっと複雑になりすぎる感がある。しかし、このモデルでは、著者があちこちで主張しているDirected Technical Changeに関する興味深い結論が得られる。

 若干気になる点について。労働者が雇用されるのは中間財部門のみであるが、2つタイプのある中間財はそれぞれ1タイプのみの労働者のみで生産するというセッティングである。よって、Skilledを使う方は、Skilled集約的中間財、他方は逆となるわけだが、これでいいのだろうか。確かに2タイプ2要素というモデルは、そのまま分析することが非常に困難である。しかし、雇用の分析まで拡張する際に、このような定式化では、互いに独立なままで、一方の外生的変化が他方に全く影響しなくなる。

 この論文のアイディアをうまく拡張できるとおもしろい分析ができるのではないかと思う。