- 論語は,学習に基づいた社会秩序という思想を,最も早く,最も明瞭に表現した書物である。
- 論語の思想の最も重要な特徴は,学習のダイナミクスにある。書き下された形の知識を求めるのではなく,書き下し得ない微妙なダイナミクスに真理を求める点が,論語の魅力でありわかりにくさの源である。
- 孔子の追求する人間のあり方は,自分を常にモニタリングして人の言うことに耳を傾け,自分の間違いに気づいたら直ちにそれを受け入れ,さらに自分の行動を改める。
- 「忠」とは,君主に率直な考えを述べ,君主が立派な政治をすれば協力するが,そうでなければ協力しないという態度であえる。君主を相手にしても,自分の心を偽らないことが忠である。
- 自分のやりたくないことは人にするな,これは自分のやりたいことを他人にしろを意味しない。人に何かするとなれば,それは自分のやりたいことでなければならない。
- 人は,無意識の衝動にかられて間違った行いをする。「克己」は,その無意識の作動に気づき,それを認めてはじめて行いを改めることが可能になる。無意識の部分を意識するのは容易ではなく,自分の認めたくない記憶と向き合い,恥じて悲しみ,乗り越える行為である。
- 学問をやって思考が固まる人は,自分の感覚に従って思うことが欠けており,学んだ知識にとらわれて自分の相対的状態が見えず,危うい状態になる。一流の選手もコーチを必要とするように,自分の状態の把握は難しく,そのための学が不可欠である。
- 結局,常に自分を開き,ありのままの姿でいることが,君子にとって最も大切なことである。過ちを犯したら言い逃れをせず,それを改めることに躊躇しないのだ。
- 自らの心を閉ざし,学習回路を停止している小人同士の「同」の中で表面的な礼儀作法をやっても「礼」にはならない。人々の学習過程が作動するときに真の秩序が達成される。
- 仁・忠・恕・道・義・和・礼という諸概念は,相互に関係している。仁は学習過程が開かれていること,忠はそのとき達成されている自分自身の感覚への信頼を表現すること,恕はそのとき他者との関係において自分のあるがままが開かれていること,この状態にある人が道を見いだし,その道を辿って出会う出来事においてなすべきことが義である。仁にあるもの同士の調和のとれた相互作用が和であり,そのときに両者の間で交わされるメッセージのあり方を礼という。
- 觚を孔子は嫌う。人間は「名」によって世界の「像」を認識する。よって安全でないなら危険と言わねばならず,爆発がおきなたら爆発したと言わねばならない。名を正し,正しく名を呼ぶことが人間がまともに生きる第一歩である。これは聖戦,皇軍,転進,玉砕,特攻の例からも明らか。
- 学習停止という悪には伝染性がある。誰かが悪の状態でコミュニケーションをとれば,その相手の学習過程が破壊される。一人が複数の人を悪に陥れると悪が指数関数的に増える。君子が学習過程を守り抜けば,他者の学習回路を駆動させる。「怒りを遷さず」とは,悪を直ちに自覚し,その当人に怒りを向け,他の人に向けないという意味である。
- ガンディーの思想の中核の非暴力的抵抗は,サッティヤーグラハといい,それは真理にしがみつくという意味である。
- 西欧倫理学の有名な問題に,5人を轢くか1人を轢くかという設定があるが,孟子によれば,どんな問題を出してもその答えは惻隠の心に従え,自分自身の自発的な作動をとらえてそれに従って動けということになる。身体が感じ取り,身体が判断する。頭で考えて合理的に判断してはいけない。
- 子供が井戸に落ちたときの反応は,君子の場合直ちに心が動き,同時に身体が作動する。小人は心が直ちに動くが,他人が自分にどう見えるか考えないと行けない。アダム・スミスの同感の場合,他人が自分にどう見えるかに加え,他人がその行動をどう判断するかをシミュレートしないといけない。
- ドラッカー経営学の最も重要な発見は,組織はフィードバックと学習なしには決して作動しないということである。
- 事業を成り立たせるマーケティングとイノベーションは,市場調査とか革新ではない。マーケティングはコミュニケーションであり,革新とはマーケティングで得られた知識によって自らを変革することである。
- 自らの行いを良く見て,自らのあり方を変える。これがマーケティング+イノベーションであり,これは仁である。
- 仁を実現できるのは,制度でも仕組みでもなく,君子だけである。よって組織は君子によってしかマネジメントし得ない。ドラッカーが組織や仕組みではなく,マネジャーのあり方を重視するのはそのため。
- 現代の問題の多くは,経営者が小人によって占められ,和が失われて同と盗におおわれているから。
- では,なぜ君子が少ないのか。1つの理由は,人材の登用がおかしいこと。もう1つは,君子がそもそもまれなこと。
- 孔子の教えの本質はフィードバックと学習であり,人間の知性は動的で循環的で文脈的なものであるが,それが文字の出現によって固定化,一方向化,辞書化され貶められてしまった。
すばらしい本。多くの教育関係者と経営者が読むべき本。教育学と経営学がなぜ似ているのかがよくわかった。