2011/06/10

潮木守一(2009)『職業としての大学教授』中公叢書


  • 新堀が40年前に問うたことは,日本の学界を支配する年功序列人事,エスカレーター式昇進に対する告発。学問成果を上げても報われない学界,いくら怠けても制裁を下さない学界への疑問・疑惑・義憤。
  • イギリスの大学は,教授13%,上級講師・上級研究員25%,講師27%,研究員27%という構成。
  • 大学教員には4タイプあり,教育と研究の両方に義務がある教授,教育にのみ義務がある学生指導専門の教員,研究だけに専念する特別著名教授,研究だけに従事する研究補助員の4つ。タイプ2は入門科目の指導が中心,タイプ4は任期付きで若手に偏っている。学生数の増加で教員を多く採用したが,教授は増えず講師層が増えた。
  • フランスの大学は,教授22%,講師41%,助手0.1%,中等教育資格教員5%,臨時教育研究補助員7%,語学教員1%という構成。
  • フランスは,中等教育資格教員から出発し,やがて大学教員になるキャリアを辿る。高校でフルタイムで働きながら助手ポストの空きを待ち,そこから講師・教授を目指す。学生の急増にこうした教員の対応がよく,大学拡張期に採用されたことも遠因。
  • ドイツの大学は,教授22%,講師・助手5%,研究員69%という構成。研究員はタイプ4教員で,教える資格を持たず,研究プロジェクトに参加して収入を確保しながら,資格を取る準備をしている(任期制)。これには,博士号志願者がつく。
  • ドイツの大学には大学院がない。学部修了後,指導教授を選び,そこで研究助手として働きながら博論を書く。ただし,研究員には学位取得後教授資格試験を目指すものも含まれる。学部卒後博士まで6年とポスドク6年の間で教授職を得る必要がある。
  • アメリカの大学は,教授25%,副教授20%,助教授24%,指導教員15%,講師4%,その他12%という構成。他国と比べて煙突形。ただし,アメリカの大学は大学間の序列が鋭く,一流大学2%,研究大学2%,博士課程大学2%,修士課程大学15%,学士課程大学18%,短期大学42%,特別目的大学19%という構造で,上へ行くほど給与が異なる。トップ100大学の教授ポストを目指しての競争が熾烈。
  • 日本の大学は,教授40%,准教授24%,講師12%,助教20%,助手3%という逆ピラミッド型。これは私立大学の方がよりその傾向が強い。私立大学は教授定員を各大学で自由に決めることができるため,給与面での処遇が難しい大学がポストで処遇している可能性がある。
  • 日本の純血主義は,大学の面子の問題。自分の大学の学問水準は十分に高く,自前で後継者が養成できるという信念。
  • 日本の大学は私立から始まり,慶応,早稲田,同志社などは明治初期にはできあがっていたが,明治政府は正式の大学として認めず,専門学校のままで,最初の大学は東京帝国大学であった。帝大は教員を外国から,私大は教員を帝大から集めていたが,自前での後継者育成を目指したのは,他大学出身者の排斥ではなく,宗主国からの独立を求める民族運動のようなもの。
  • 終身職を得る適切な時期は難しい。学問的実力の見極めには時間が掛かるため,若い時期からの終身職付与は危険だが,その時間が長いとその職業を選ぶ学生がいなくなる。学問の世界に避けられない途中淘汰を保ちながら,同時に若者を引きつけることに世界中が苦慮している。
  • ドイツでは,博士号に加え,教授資格試験を受けて教授資格を得なければ教授になれない。これは19世紀初頭からの制度。縁故人事などが横行したために導入されたもの。博士論文以上の水準の論文を提出して,公開の試験講義をする。平均学位取得後7年,年間2000人が合格。
  • ただし,有資格者の内,実際に教授になるのは約4割。残りは教えることはできるので,給与のない私講師のとして,研究プロジェクトの研究員をしながら生活を支える。
  • ドイツは内部昇進禁止の原則がある。公平な人事には身内より外部の評価が健全という理由。教授試験に合格しても招聘がなければ昇進できない。さらに,教授の中でもW1〜W3の3段階があり,上位への昇格も外部招聘。
  • フランスは,各大学が教員を採用せず,全国共通の基準で資格審査をする(コンクール)。教授間,講師間の異動は現職者に優先権あり。これを差し引いたポストは公開公募の対象。講師の場合,倍率が5倍。
  • アメリカの教授は自分の値段を知っている。私立研究大学の教授の平均年収は10万ドル,私立教養大学の教授は6万ドル。ビジネス,工学,医学の給与は高く,人文,芸術ではその半額。ただし,研究大学でない州立大学では,公務員型で給与が決まる(専門分野の差が少ない)。
  • イギリスは150以上の大学があるが,全てが同格ではない。高校最上級学年の2年間は3教科に絞り込まれ(歴史・国語・社会とか数学・物理・生物などの組み合わせ),それぞれA〜Gの7段階評価で,AAA出なければ入れない大学がある一方,GGGでも入れる大学がある。
  • 研究実績評価をみると,鋭いピラミッド型で,90点台2校,40点台2校,30点台5校,20点台18校,10点台12校,0点台28校(歴史学科の場合)。これで研究費配分が決まる。
  • イギリスの大学は,(1)中世設立の,オックスフォード,ケンブリッジ,グラスゴー,エディンバラ,アバディーン,セント・アンドリューズ,(2)1936年以降の赤煉瓦大学,マンチェスター,リヴァプール,(3)1963年ロビンズ委員会勧告設立の7大学,サセックス,エセックス,イースト・アングリア,ウォーリック,ヨーク,ケント,ランカスター,(4)1992年以降ポリテクからの昇格大学の4分類。
  • イギリスで大学経営・人材獲得を複雑にしているのは,競争相手が全英語圏との競争のため。経営者の腕の見せ所で,収支をバランスさせながらスター教員を獲得しなければならない。
  • 大学教員にとってマンネリは致命的。いったん大学に職を得ると,異動しなくなくなる。住宅,子供の学校,配偶者の職場などのため。フランスでも一時期内部昇進を禁止した。またフランスは強いパリ指向のため,流動性を高める政策が必要であった。
  • フランスでは教授の55%が同じ大学で講師だった者の内部昇進。教授になるには,研究指導資格試験をつける必要があり,これがないと博士の指導ができない。受けたくない者は受けなくてもよい。
  • ボイヤー:一生涯大学教員として働くために必要なのは,変化する環境への柔軟性と適応力である。
  • 日本は非学歴社会,非資格主義。博士校取得者の所得は,学部卒のフランスで1.4倍,アメリカで1.6倍。
  • フランスの大学は,2,3,4年課程修了で出る者もいる。博士を目指すならまず大学内の選抜を切り抜け,4年課程を修了し,さらに博士課程のための準備課程1年を経て高等研究資格を取得する必要がある。これから本格的な博士課程が始まる。入学試験がなくバカロレアを持っていれば誰でも入れるが,学年ごとの勝ち抜き競争がある。
  • ドイツは博士取得後時間差なく就職している(一般雇用市場に開かれている)。ドイツの経営陣の5割は博士取得者,学生中にインターン(企業実習)へ出かけるなど,博士課程が大学と企業を往復するキャリアのため。
  • 日本以外の国は,大学教員へのキャリアが他の職業機会と比較して十分な競争力を維持できるかどうかを絶えず測定し,危険があれば警報を発する機関を持っている。
  • アメリカの大学の学長は,豪邸に住む物乞いというジョークがあるほど,寄付金集めが学長の職務として学長に関する規定の中に明記されている。
  • アメリカの学長は,学生には友達,教授には同僚,卒業生にはいい奴,理事には健全な経営者,一般大衆には立派な演説家,財団や政府には機敏な交渉家,州議会には政治家,寄付者には説得力ある外交官,自分の研究分野では立派な学者,課程ではよき夫・父・熱心な協会員。
  • 現在の大学は,かつてのように一様ではなく,各大学の理念・目標・存在意義があり,それをどれだけ達成できているかを逐次評価確認する必要がある。
  • 終身在職権とは特権。誰にでも保証される者ではない。この人間ならば大丈夫と保証できる少数者を選び出して与えるべき。教授の名を使えるのは,こうした選抜を抜けてきた少数者の権利。