2011/06/03

谷聖美(2006)『アメリカの大学』ミネルヴァ書房


  • 大学とは様々な機能や権限を持つ期間や役職が協力・牽制しながら動いていくプロセスの束のようなもの(ゴミ箱モデル)。学長がトップダウン的に組織全体を動かす一元的組織とはなっていない。
  • アメリカの大学世界では,共同統治をプラスイメージで用いるが,強力な権限・リーダーシップ不在による不能率ももたらす。
  • 大学の設置認可を取り仕切る中央官庁はなく,認証協会に認証された機関が大学。認証協会は大学以外にも,小・中・高の認証も行う。
  • 日常感覚でよく使われる分類は,research university, teaching university, national university, regional university(CCやJCは含まない)。
  • 研究大学は,教育をおろそかにすることはないにしても,人事考課には反映されず,研究業績のみが評価対象。教育中心大学になると,教育面の評価が重視されるようになる。リベラルアーツ・カレッジの力点は教育にあり,全寮制・小規模・少人数教育で人格陶冶も含めた教育を行う。一方,CCは研究面は重視されず,教員は修士資格,近くの研究大学の大学院生の非常勤というものもある。評価は,学生による授業評価に過度に依存することになる。
  • CCは学費が約17万円,とりあえず自宅から近いCCへ行き,四大への編入を目指す学生の多さはここに理由がある。
  • 私立大学の理事会は,一部に卒業生代表などを含むものの,基本的に辞任・死去の際に欠員を補充する自己充足的団体であり,州法・監督機関以外に制約を受けない自治機関である。
  • 州立大学の理事は,州議会の任命か有権者の選挙で選ばれる。理事会は,学長の任命,大学の運営方針・財政政策・研究教育基本政策,教員採用・昇進発令の決定権を有す。一般に無給で,尽きに1・2回理事会を開いて大学側の用意する案件を審議する。教員や学生の代表が理事会に陪席する権利をもつ大学も多い。
  • 執行部の頂点は学長。実質的な役割は,対外的なもの(広報,対連邦・州政府,同窓会,寄付金集め)にあり,学内の権限はProvostへ委任されている。PresidentとChancellerの使い方は州によってかなり違う。
  • 学長は理事によって任命され,研究者としての一定の経験を持つ人の中から選ばれる。通常は,公募方式で選考委員会が設けられる。私立は自校関係者から選ぶ傾向があるが,州立大学ではその傾向はない。当初は研究者として出発しながら,大学行政・経営に才能を発揮してそちらの分野へシフトした人たち。あちこちの大学で,学部長,副学長,Provostを歴任した後にどこかの学長に抜擢され,さらに業績を上げると有力大学の学長に引き抜かれる経歴を辿る。要するに,学問業績ではなく,大学経営上の手腕・見識・リーダーシップで選ばれる。
  • 学長が強力なリーダーシップを発揮する機会はそれほどない。大学が高度に分権化されており,自律性と自治権を持って集まっている組織や機関を束ねて方向性を与えていく仕事は容易ではなく,トップダウンで大学を動かせる権限を持っているわけではない。(そもそも強大な権限があるなら,命令すればいいのだから,その地位に就く人にリーダーシップの能力がある必要はない。)
  • 学長は,政府の構造と同様に,理事会,全学評議会,学部,学生団体,同窓会などと交渉・説得・脅しながら,協力と同意を取り付けて大学を動かしていく。権力関係の中心にはいるものの,頂点にいるわけではない。優れたリーダーシップを発揮する学長とは,中心と頂点の差を,人望とスキルで埋めることができる人。
  • 学長の業務は,理事会の方針を実現し,状況を報告することと,寄付金集めである。
  • 大学の事実上の最高責任者はProvost。副学長職を兼任することが多いが,「副」学長の一人ではなく,不在の学長に代わって大学を預かる長のような存在。主席副学長と言う訳も無理がある。あえて言えば,学事最高責任者。College Deanの名をつけるところもある。
  • Provostの包括的職務を補佐する訳としてAssociate Provostがあり,教職員人事担当,研究・教員関係庶務担当,学事・予算担当,予算・企画・管理担当など。学部長(Dean)と研究所長,図書館長,博物館長もProvost直属(ミシガン州立大の場合)。理財,法務,広報,大学振興,対政府関係,学生を担当するProvost直属でない学長直属副学長もある。
  • 学部・研究科の長(Dean)は執行機関の長であり,選挙で選ばれることはない。学部(School・College)は自治の単位ではなく,自治の単位は学部・研究科を構成する学科(Department)である。ただし,日本の学部規模の学科もあるので注意を要する。学部・研究科が単科大学のような存在。
  • 一般に大学院は機構上は独立しており,そこにもDeanがいるが,専属の教員はおらず学部の教員が兼務する。
  • 分権と集権の圧力の接点にあるのがDean。理事会・学長の基本方針に沿って学部を運営すると共に,学部のパフォーマンスを上げるよう経営的な手腕が求められる。そのため,学部長は学科長の任免権,予算配分と執行の監督権,学科カリキュラム点検の権限を持つ。学部独自の寄付金集めも行う。
  • 学部長は,統治・執行機関に属する役職で,Provostによって任命される。学部内から選ぶよりも,全国を見渡して優秀な学部経営者候補を探して絞り込む(コンサルタントが選抜する)。学部には教授会がなく,学部長は学長とProvostに責任を負うため。ただし,学部長になると,どこかの学科に教授としてのポストも与えられ,学部長を解任されても,教授としての身分保障は受けられる(学長も同じ)。
  • 私立大学の財源は,授業料28%,投資収益・事業収益(病院・企業)25%ずつ,寄付金12%,政府から10%。州立大学は,州政府36%(州からある程度自立した存在),委託研究費・事業収入22%,授業料19%,連符政府11%。
  • 常勤職員数が常勤教員の3倍〜8倍いる点(ただし,病院看護師を含む)が特徴(東大で1.3倍)。
  • ファカルティは,教員全体という意味で使う用語。学生は大学に所属し,教員がいる学科とはつながりを持たない。所属学科が決まるのは1〜2年生の段階で先行を選んだ後(専攻の決定は履修上の問題だが)。よって,担任制度はなく,教育以外で学生を指導する発想はない。
  • 分業が徹底されているので,卒業や進級を巡って教授会がもめることはあり得ない。寮の管理や問題学生対応は学生部が,成績管理や卒業認定,成績不振学生への勧告,表彰は教務部(Registrar)が,卒業要件を満たすかの判定は学位審査官(Auditor)が,入試については入試部が行う。(選抜基準は委員会で審議)。
  • ただし,教員・学生交流はある。寮があれば,配偶者も含めて積極的な交流がある。授業負担は週数コマ。優秀教員はその数コマを減らす交渉をしたり,外部資金で非常勤を雇って任せることもある。ただし,シラバスなど担当科目に割くエネルギーは大きい。
  • 教授会は教育研究上の組織であり,入試,予算管理,学生生活については権限も責任も持たない。そもそも研究に必要な費用は自分で調達し,配分校費などない(そのため校費配分で会議する必要がない)。ファンドが取れない教員向けに,30〜40万円ほどの学内ファンドもあるが,これも学内審査で優秀と判定されないと支給されない。
  • 教授会の任務は,学科がカバーする学問分野の研究と教育,教員人事。議決権は常勤講師(Assistant Professor)以上。(参加は,非常勤,客員もできる大学もある)。
  • 教授会を率いるのは学科長。基本は任命だが,学部長がメンバーの意見を聞いて候補者を説得し,指名する。通常は待遇の交渉も含む。公募でどうしても取りたい人がいれば,配偶者のポストを用意することもある。
  • 正規大学教員の道は,InstructorかAssistant Professorから始まり,3年任期で更新保証はない。教育研究で評価され,2回目の任期終了頃(6年目)の本格審査に耐えるとTenureとなる。耐えられなければ,1年ほどの猶予後に契約終了になる。Tenureであれば,大学を移っても通常はTenureとなる。昇任は教授会の投票2/3以上で決まる。
  • アメリカでは,出身大学よりもいい大学へは行けない。公募では推薦書が重要であり,有力大学の推薦状が得られる方が有利だが,推薦状を得られる業績と人間性がないとそもそももらえない。
  • 教員の評価は,教育,研究,学内サービス,地域貢献の4つだが,そのウェイトは大学でかなり異なる。リベラルアーツ系で60:30:10:10,研究大学は0:100:0:0。これに基づいて給与が決まる。博士課程のある大学の教授で約1000万円,コミュニティカレッジで約700万円。
  • アメリカの教員は必ずしも業績が出ている訳ではないが,研究大学教員の生産性は高く,その源泉は厳しい業績主義の環境。個人研究費はない,コピーも上限1000枚など決められている。研究者は原則自前で必要なものを買いそろえる。外部資金はいったん取れば使用は比較的自由。長い夏休みとサバティカル,スタディリーブも業績の原動力。(学期は9月初〜12月,1月半〜4月末)。ただし,夏休み中は義務がない代わりに,給与も出ない。
  • 学科教授会は,カリキュラム,出願資格要件,卒業要件,学位審査,組織や手続き,教員採用と審査の権限と責任がある。
  • 評議会は大学のあらゆることに関与し,執行部や理事会へ勧告を行えるが,拘束力は持たない。(大学によってかなり違うので注意)。
  • アメリカには大学入試がない。入学要件は学科が決めるが,選抜はアドミッションズ・オフィスが行う(多段階の審査なのでアドミッションズ)。入試枠はなく,個別志願者について選考を行う。選抜は,全入式(CC),通常式,早期決定式(合格したら必ず入学),早期判定式,先着順選考式がある。通常式は,高校最終学年のはじめ(4年の秋)に願書を出すと,大学は高校の推薦書,SAT成績をみて合格者を決め,4月頃結果を通知する。入学までの2,3週間で学生はどこへ行くか決める。
  • 学生は一般に10校ほど出願する。併願制約もなく,試験もない。大学から見ると,来てほしい学生が来ない問題がある。そこで,どうしても入れたい学生は奨学院を出す。AOerの腕の見せ所は,学生に逐次電話してとどまらせること。
  • 志願者が万単位の州立大学では,SATと高校のGPAで一定割合を選抜し,残りを成績と課外活動を併せて評価する二層選抜が一般的。
  • 学士教育の柱は,一般教育,高度学芸教育,専門職教育。非実学的な学部教育が主流で,LA学部で学士を取る学生は6割。学生に求められるものも多様。LAから出発し,後から職業教育が加わった歴史の反映。
  • ハーバードのコア・カリキュラムは,幅広い科目を選択することを義務づける広領域教育。
  • 学科以外のプログラムとは,相互に関連する学科や他学部教員が集まって作る教育単位で,専任教員が要らない分,安価にできると共に学際教育も行える利点がある。学生は,入学時点ではどの教育単位(学科・プログラム)とつながりを持たない。自由に選択する中で,遅くとも2年の終わりまでに専門を決める。専攻を決めるにも,定員があるので成績がよくないといけない。卒論はないが,授業の中で研究論文が求められる。コースワークに耐えて際知恵のGPAを獲得すれば,卒業認定の申請をする。要件が満たされたら,次に学位記の請求を行う。学位記は,学士学位だけが書かれ,専攻は記されない。BAとBSの二種類のみ。
  • 入学後のフレッシュマンセミナーは,通常名誉教授など経験豊かなスタッフが担当する。15人または25人上限のゼミ。大規模講義とセットのゼミもある。
  • アメリカでは単位を一律の時間数ととらえておらず,講義自体の時間数に基づく(単位時間,Credit hourと表現する)。単位数は難易度や学習に必要な時間・労力を示すものではない。
  • アメリカでも成績評価の全学基準はなく,仏や鬼がある。成績評価で重視されるのは期末試験。UC Berkleyでは全て筆記試験で実施しないといけない。中間試験の実施は教員の裁量(シラバスで示す)。口述試験は学部レベルではほとんど見られない。
  • セメスター制では,授業は約12週,講義は週2〜3回あり,授業も9時から19時まで,ゼミは22時まであるので,集中的。クォーター制では約9週。