楠木健(2010)『ストーリーとしての競争戦略』東洋経済新報社
- 優れた戦略とは,思わず人に話してみたくなるような面白いストーリー。項目ごとのアクションリストの戦略が多いが,それは戦略の構成要素の動きと流れがわからない静止画のような戦略。
- 戦略論のテンプレート偏重やベストプラクティス偏重には,ストーリーのある戦略作りを阻害する面がある。
- 論理とは,AならばBであるのように,2つ以上の思考や現象をつなぐ理由付けを指す。戦略の8割は理屈で説明できないが,2割の理屈を突き詰めていなければ理屈でない部分の嗅覚は磨かれない。
- 法則は,戦略論の対象になり得ない。経営や戦略は,科学でないから。経営学の答えは,法則はないが論理はある。経営学は,なぜ(Why)を明らかにする学問。
- 戦略の本質は,違いをつくり,つなげること。前半は競合との違いを意味し,後半は構成要素間の因果関係を意味し,次の重要なポイントがある。
- 経営の多くの問題は,分析の発想に基づく。マーケティング,アカウンティング,ファイナンス等の構成要素に分解される。
- しかし,戦略の神髄は綜合(Synthesis)にあり,分析の発想と相容れない。よって,戦略に対応する部署は組織の中に見つからない。
- 戦略は部署でなく,人が担う。戦略はサイエンスよりもアートに近い。
- 戦略は因果論理の綜合であり,特定の文脈に埋め込まれた特殊解という本質を持つ。よって,普遍の法則はない。
- ストーリーの戦略論は,アクションリスト(戦略部門の分業的分析では無味乾燥な静止画の羅列になる),法則(違いを問題にする以上,大量観察を通じて確認される規則性は平均的な傾向しか示せない),テンプレート(分析は要素間の因果論理を考える助けにならない),ベストプラクティス,シミュレーション(数字の背後の因果論理が考慮されない),ゲームではない。
- 静止画戦略論が好まれる理由:
- 忙しいから。テンプレートがあれば手っ取り早く戦略をつくった気分になれる。
- 経営企画部門は,戦略構想が仕事ではなく,戦略構想する人のための情報整理が仕事で,シンセシスに責任がない人にとってはテンプレートが有用。
- プロフェッショナル経営者という幻想。標準的なスキルセットではない。
- コンサルタントの存在。
- コミュニケーションが早い(共有するゆとりはない)。
- ストーリーという視点は,戦略をつくる仕事を面白くする。難しい顔で戦略を考えている人が多すぎる。所詮はビジネス,自分で面白いと思わないものが,他人が関わる組織で実現できるわけがない。
- 優れた戦略思考を身につけるために大切なことは,お話づくりを面白いと思うかどうか。むずかしい,思考様式が戦略と思い込んでいる人が多すぎる。
- 戦略は,競争戦略(事業戦略)と全社戦略がある。前者は他組織とどのように向き合うかに関わる戦略,後者は複数事業の資源配分と進出撤退をどう構築するかに関わる戦略。
- 目標を立てることと戦略をたてることを混同しやすい。戦略は,なぜ目標が達成できるかという道筋のこと。
- 競争戦略は,競争がある中で,いかに他より優れた収益を達成し,それを持続させるか,その手立て。完全競争から見えれば,競争があるにもかかわらず利益があるのは,不自然でもろい状態。競争がある中で儲かる不自然な状態をつくって維持することが競争戦略の課題。
- 違いの作り方には,種類の違い(ポジショニング)と程度の違い(組織能力)の2つがある。前者をStrategic Positioning,後者をOrganizational Capabilityと呼ぶ。
- SPのベースは産業組織論。産業のあり方が企業の行動を規定し,その結果としてその産業の収益性が予想され,その産業に帰属する企業の収益性も予想できるという考え方。SPは,無競争に注目する。
- SPは,競争優位の源泉を組織外のコンテクストに求める(位置取り)。OCは,自分たちの持つ強みを理解して,簡単にまねできないものに練り上げる。SPは質とコストのトレードオフ関係,OCはフロンティア拡張関係にある。
- SPでは,マネジメントは意志決定者。OCでは,マネジメントの直接操作が曖昧(だからこそ因果関係が不明確になり,経路依存的になり,まねしにくくなる)。MBAはSPを好む。
- SPは何をするか・しないか(What),OCはユニークなやり方(How),これを統合して戦略ストーリー(Why)ができる。
- 戦略ストーリーを組み立てる柱は,(1)競争優位(最終的な論理の帰結),(2)コンセプト(本質的な価値の定義),(3)構成要素(SPかOCか),(4)クリティカル・コア(一貫性の源泉となる中核的構成要素),(5)一貫性(因果論理)の5つ。
- どんな戦略も必ず,ハッピーエンドで終わる。バックワードに考えることで一貫性を組み立てやすくする。競争優位の中身は,WTP,低コスト,独占・ニッチの3つ。ただし,軸足を定める必要がある(バッティングしたときにどちらをとるかをはっきりさせる)。
- ストーリーは,終わりから組み立てる。軸足の選択は,ストーリーの基本的な性格を決める。
- 最初からストーリーがあったわけではないという指摘は,正しいが間違い。細部は出来上がっていなくてもストーリーの原型を初期からつくっている。ストーリー化の思考があるから,新しい打ち手をつくり,これまでの打ち手を修正できる。
- ベストプラクティスに学べという思考は,そもそも違いをつくるはずの戦略を阻害し,同質的な競争へドライブする面がある。(会議は時間を短くが常識だが,技術開発が事業の軸足の会社など,あえてダラダラやることにこだわる組織もある。)
- コンセプトは,本当のところ誰に何を売っているのか,どのような顧客がなぜどのようによろこぶのかを指す。
- たとえば,顧客を組織化して囲い込むにしても,それに先行して誰に何をを突き詰めなければ,コンセプトは動画にならない。そこまでの価値を認める顧客は誰か,なぜ彼らを囲い込めるのか,なぜ彼らが継続的にお金を払うのか,コンセプトはこうした一連のなぜに対する答えを含んでいなければならない。
- 本質的な顧客価値を突き詰めるとは,誰がなぜ喜ぶのかをリアルにイメージすること(アスクルの久美子さん)。
- コンセプト作りで重要な点:
- すべてはコンセプトから始まる。しかも投資が不要。本質的な顧客価値をとらえていると確信できるコンセプトが固まるまではストーリーの細部を考えても意味はなく,時間をかけて構想すべき。
- 因果論理の綜合という意味でもコンセプトは重要。ストーリーに含まれる全ての構成要素は,コンセプトの実現に向かわなければならない。コンセプトと因果論理でつながらない構成要素は意識的に切り捨てる。
- 全員に愛される必要はないことは,コンセプトを考える上での大原則。誰に嫌われるべきかをはっきりさせられることはビジネスの特権。行政サービスではそうはいかない。コンセプトは肯定的な形容詞を使わずに表現する。最高の品質がよいのは当たり前。空飛ぶバス,第三の場所には肯定的形容詞がない。
- コンセプトは人間の本性を捉えるものでなくてはならない。なぜ喜び,楽しみ,面白がり,嫌がり,怒るのかということ。機会を捉えることに終始すると,空疎なコンセプトしか出ない。
- ストーリーは長い話,20年くらい同じストーリーで利益を獲得できることが理想。そのためにも,人間の本性をとらえたコンセプトが重要。人間の本性は大きく変わらない。
- クリティカル・コアでは,一見して非合理が重要(スターバックスの直営方針)。時間的先行による専有は,できるものならまねしたいと多組織も思うが,非合理はまねする動機がない。
- クリティカル・コアは,先見の明ではない。先見の明は,外部環境の変化の先取りを前提にする。部分非合理を全体合理性に転化することがクリティカル・コア。
- どんな戦略も成功するかどうかは事前にわからない。その意味であらゆる戦略は実験。ストーリーを事前に共有すれば,実験の失敗に気づくことができる。大規模組織ほど失敗の正体が突き止められない。ストーリーを引っ込める基準も事前に作っておく。
- クリティカル・コアを見いだすには,日常的な小さな疑問に,なぜを考えることを惜しまない。大抵,技術的に無理とかコストが引き合わないなど,どうしようもない理由があがる。それが常識にとらわれ,簡単な論理で解決できることに気づくときが来る。
- 戦略思考を豊かにするには,歴史的方法が最も有効。つまり,過去に生まれたストーリーを多く読み,背後にある論理を読解すること。新聞や雑誌ではなく,ある組織の歴史や戦略をじっくり記述した本や,優れた経営者の評伝・自伝,あるいは昔の新聞を見て,ファクトの背後にあるなぜを考える。
- 優れたストーリーの条件は,そのストーリーを話している人自身が面白がっていること。必ず成功する条件ではないが,優れたストーリーの必要条件の一つ。
- 戦略は総力戦。何をどのようにも重要だが,なぜについての全員の深い理解がなければ,実行に関わる人のモチベーションは維持できず,総力戦にならない。
- 戦略を作ること,実行することは重要だが,伝えることの重要性もある。伝わらなければ実行はあり得ない。伝達は手間のかかる仕事。グラフを入れたドキュメントを配ってもイントラネットで共有しても戦略は伝わらない。リーダーがストーリーを語らなければ伝わらない。ストーリーを語るときはフェイス・トゥー・フェイスが基本。おもしろいストーリーをつくれば,思わず話したくなるので,共有したくなる。優れたストーリーをつくるには,おもしろいストーリーをつくるにつきる。