2011/12/13

吉見俊哉(2011)『大学とは何か』岩波新書


  • 教養の再構築以上に,旧来の教養に回帰させない大学の再定義が必要。
  • 90年以降の大学進学率上昇は,入学需要に応える構造から,学力や将来の志望はともかく,とりあえず進学する者を大学が自己努力によって創出していく構造への転換(マーケティング)。
  • 近代日本の大学は,医学と理学はドイツ,法学はフランス,工学はスコットランド,農学はアメリカ,文学はイングランドと,当時の最先端から外国人教師を招き,留学生を送ることで移植した。これが帝国大学として,中世ともフンボルトとも異なる日本的大学を生む。
  • 大学は知識形成の実践を集中・再編成・安定継承するメタメディア。近世の大学は印刷革命に対応できず新しい知を媒介するメタレベル組織への発展に失敗した。
  • 高度に細分化され総合的な見通しを失った専門知を結び合わせ,新たな認識の地平を与えることで相対化するリベラルアーツが必要。
  • ユニバーシティは学生の組合を指す言葉であったのに対し,カレッジ(コレギウム)は教師の組合を指す言葉として出発した。ユニバーシティの担保は聴講料,カレッジの担保は学位授与権。
  • コペルニクスは天文学だけを勉強して地動説に至ったのではなく,かなりの時間が医学や法学にさかれ,実際生活を支えたのもそれらの知識で,全てが何らかの形で天文学と結びついていた。
  • 18世紀の新たな知識生産と継承の主役は大学ではなく,専門学校・アカデミー。中世に都市の自由を基盤に知の自由を抱え込んだ協同組合的大学は,印刷革命を経て近世にかけて一度死ぬ。
  • アカデミズムを象牙の塔・権威主義と見るなら,二重に間違っている。アカデミーは大学の保守性を批判し,新しい知を切り開く役割を担い,かつ,実学的で新しいものに対応して実験的な知を紡ぐ専門家集団である。
  • フンボルト型大学の特徴は,いかに新たな知を発見するかという技法。内容としての知から方法としての知への転換。とは言え,実際はゼミナール学生になるには選抜試験があり,一方で放任主義教育の学生がいる二重構造だった。
  • 19世紀のアメリカのカレッジは,裕福な家庭の子を紳士に仕立てる寄宿舎学校。よって,大学教師はある分野の専門家ではなく,学生生活の監督官,授業は定食メニューの繰り返し。
  • ハーバードでドイツ型を意識し,講義を始め,出席の試験も課さず,能力別編成,選択科目導入などをティクナーが入れたが,学生からすれば怠ける絶好の機会で,最終的に改革は成功しなかった。伝統的教授法を変えたくない教授もサボタージュで抵抗した。
  • ハイスクール的カレッジから抜け出せず,旧式カレッジの教授を安心させ,一方一流の教授をおける方法としてジョンズホプキンスに大学院が生まれる。ここから,教授は教師でなく研究者が求められ,紳士の育成ではなく研究者の育成に向かう。
  • 大学の名称は古代律令制の大学寮に由来,唐の官僚候補生への教育と試験を実施する所。
  • 士族にとって維新は特権喪失であり,新たな人生の道を見つける必要があったため,学校に通って技能を身につける以外に道がなかった。
  • 京都大学の帝国大学への挑戦(学年出科目固定,進級試験必須)は,高等文官試験の成績向上に結びつかずに挫折してしまい,結局東大とほとんど同じになる。
  • 帝国システムの6番目はソウルの京城,7番目は台湾の台北。
  • 敗戦時の総合的教育を行う大学は49校。高等教育全体のヒエラルキーは官学。地方の官立高等教育機関を1件大学に統合して官学全体は縮小,一方で,私立の大学化で重心が私学へ移る。
  • ハッチンスのシカゴ改革は,40の学科を人文,社会.生物,物理,の4ディビジョンに再編,学部前期課程も独立ディビジョン,経営,法律,図書館,医療のプロフェッショナルスクールを加えて,大学の基本構成にする。ジュニアカレッジに高校の最後2年を取り込んで,4年生カレッジを作り,学士授与を2年早めることを可能に。
  • しかし,これはカレッジの教員が専門課程教員より格下とみられる問題を生み,社会もシカゴの学士を他の大学と同等に見ずに失敗する。
  • 南原は専門科学の分断的発展は大学の危機であり,知識の統一に向けたシステムの中核に一般教養の徹底した導入を据えた。これはエリート文化の教養主義知は異なり,異なる専門を総合する力を指す。将来いかなる職業人になろうとも,高度に専門的な知識や技術を文化や社会の全体構造の中で総合する力を備えていなければならず,大学で教育関わる者は研究者であると同時にプロフェッサーでなければならない。
  • 日大会頭の古田は,大学職員からトップに上がり,自民党政治家とパイプのあった人。大学は経営体であり,大学の質が劣化しても文部省が口出しできず,巨額使途不明金問題をきっかけに古田体制への反乱として学生反乱がはじまる。東大の医学部無給医局員問題がきっかけの東大とは別。
  • 大学に遊び半分で来た若者の多くは,闘争参加でむしろまじめになっていった。
  • 46答申の基本課題は,5つの矛盾:(1)大衆化と学術研究の高度化の矛盾,(2)高等教育の内容の専門家と総合化の矛盾,(3)教育研究の特性と効率的な管理の矛盾,(4)大学の自主性と閉鎖性の矛盾,(5)大学の自発性尊重と国全体の計画的援助・調整の矛盾。
  • これに対して13の改革を提案:(1)一般教養大学,研究大学,専門職大学の3類型化,(2)一般・専門教育を廃し,総合的教育課程で教育,(3)ICT活用,少人数,実験など教育方法改善,(4)資格認定制度導入(社会人の履修容易に,海外との互換),(5)教育組織と研究組織の分離,(6)博士学位授与水準者向け研究院設置,(7)教務,財務,人事,学生指導の学長副学長による中枢的企画・調整・評価と学外者の運営参画,(8)教員選考・評価の学外者参画,任期制,インブリーディング制限,(9)国公立の法人化,(10〜13)国の財政支援方式再検討,学生生活環境改善,入試制度改善。
  • 国立大学法人化の最大の変化は財務上の変化。組織運営が変化しないように見えるのは,事務組織や職員の意識・能力が新しい体制に追いついていないため。法人化が,予算の自由化・安定的な保証の解除と結論されかねない状況。
  • 大学は誰のものか,学生のものであれば,消費する学生の時代には大学は消費者のためのサービス財になってしまう。大学の転換点に直面した人たちは,人類的普遍性に答えを求めた。
  • 日本の大学はアメリカモデルとも異なり,基本的に加算式,古いものを残して新しいものを付ける形で発展したため,私塾,帝国大学,専門学校,新制総合大学,アメリカ式大学院などのあらゆる要素が混在している。
  • 大学とはメディアである。人と人,人と知識の出会いを持続的に媒介する。その媒介原理は自由である。