2011/02/28

宇沢弘文(1974)『自動車の社会的費用』岩波新書


  • ホフマン方式:人名・健康に関わる被害計測法=仮に事故に遭わないで生き続けた場合の生涯所得の割引現在価値。人間を生産要素とみなすことで可能な計算方法。
  • 新古典派理論の前提は,生産手段の私有制と各主体の経済活動の自由(実際は社会から影響を受けるが)。また,市場価格で評価される額を所得として得るという報酬に関する仮定もある(生存不可能な人に配慮しない)。そして,個人への分解可能性(企業は単なるヴェールで,利潤条件に基づいて自由に形を変えられるという前提)。
  • この傾向は,経済学研究の主流がイギリスからアメリカに移ったため。現実と関わらない研究が許されるようになった。実際の市場は,制度的・社会的制約条件の下で機能する。
  • 社会的共通資本は,(1)大気,河川,土壌などの自然資本と,(2)道路,港湾などの社会資本,(3)司法,通貨などの制度資本がある。
  • 社会的共通資本は,各主体がどれだけ使うかを自由に決められ,他の主体がどれだけ使うかに依存する混雑現象が生じる点が特徴。

2011/02/19

大学評価とIR,IDE,No.528, 2011.2-3

  • アメリカ高等教育のリーダーたちは,データをうまく使いこなしている。時には直感や政治的判断も行うが,どのようなデータが有効で同運営に使えばいいかを判断するスキルを有している。執行部のデータリテラシーが日本の課題。

2011/02/18

教養と大学,IDE,No.527, 2011,1

  • 教養はエリートの文化的なルールや文法だった。底の浅いものではあっても,そういう用語や思考様式に疎遠であることは,エリートに相応しくなかった。これはノンエリートを排除する装置だったが,それゆえに,それ以外にもミニ教養主義が広がり,これがまた,教養主義を正当化していた。
  • 日本の私立大学は,経営基盤強化のために学生数,学費水準,威信(選抜度)の最大化を目指す。選抜どの高さを追求するには,学費収入以外の資金によって経営を安定させなければならない。よって,助成と規制のあり方が選抜制の高い大学の成立を左右し,実際に一部の私大のそうした転換をもたらした。

2011/02/17

海老原嗣生(2010)『「若者はかわいそう」論のウソ』扶桑社新書


  • 終身雇用制は,正社員の既得権益を守り,若者に無職や非正規労働を強いており,雇用の流動化が必要という論は成立しない。流動化した市場の米国は,25歳未満失業率が約20%,全年齢平均で9%であり,日本の25歳未満失業率9%,全年齢平均5%と比較しても高い。
  • 四年制大学新規卒業者の正社員就職数は、1980年後半で29.4万人,2008年で39万。バブル期の求人ピークは94万人,94年の求人は39万人。バブル期に比べ,22歳人口が3割減る中,景気に対応しながら,新卒雇用は増えている。
  • すなわち,大学生の就職問題は大学生の増えすぎ。高卒求人の激減は高卒就職者自体が減少して大きな問題にならなかった。
  • 就職氷河期の根拠は大企業求人倍率0.5〜0.8の推移(過去15年)。しかし,1000人以下規模では,2.16,300人以下規模では4.41で,ホワイトカラー需要は多い。余裕がなければ新卒を採れないはずで,就職先としては悪くない。
  • 中小企業就職は,動機がいない,研修がない,給与・休暇面の不遇などの面で求職側に不安がある。
  • 政策として,ブラック企業のデータベース化と,集団新任研修,勤続手当支給を行えば,就職と定着を促進できる可能性がある。
  • 企業が高学歴者を求める理由は,(1)膨大な資料を扱う,新規立ち上げ,複雑な仕事などをこなす頭のいい人,(2)物事の要領を得て効率良い勉強ができる要領のいい人,(3)上の言うことを忠実に守る人の3タイプが,組織にとって有益であるため。

2011/02/15

クリストフ・シャルル,ジャック・ヴェルジェ(岡山茂,谷口清彦訳)(2009)『大学の歴史』白水社


  • 大学とは,教師と学生が連帯して生み出していく多少なりとも自律的な共同体であり,そこでは高い水準で初夏目の教育が行われる。この意味で大学をとらえると,この制度は西欧文明に固有の産物で13世紀初頭に英仏伊で誕生した。
  • 初期の大学は,地域で違う。北部(パリ,オックスフォード)では,教師らの組合・学校の連合で,教会の影響が強かった。教育内容はリベラルアーツ。南部(地中海沿岸)では,学生らの組合で教師は排除されていた。教育内容は医学,法学で,学生の年齢は高く,裕福な指定が多く,教会の影響は限定的。
  • 14,5世紀に,君主や都市など政治権力が創設を決定して後に教皇が認可する大学が増える。有能で国家に奉仕できる役人(教養人・法学者)を育成し,法制国家イデオロギーを形成するため。
  • 初期の大学では,知識はアリストテレス,古代ギリシャ哲学だったが,原典(権威)の受容のみに不満な学生が,自ら都市を移動し大学を形成する。そこでは住民との対立が生まれるため,教会の庇護を受けることで自治を維持した。教育をプロフェッショナルなものにする必要が意識されるところから大学改革が進んだ点は,現在と同じ。
  • 16世紀以降になると,宗派の対立と,異教に感染することを恐れる国家君主の制限で,絶対主義国家が出てくる。国はエリート養成を管理下に置き,留学を厳しく制限。学生人口は伝統的大学ではなく,新興の都市大学で増えることになる。
  • 18世紀になると,学位は社会的流動性を保証するものではなくなり,平民出身の学生がいなくなる。印刷技術普及による人文主義と宗教改革の浸透で,騎士・宮廷文化が衰退の危機にさらされる中,大学の教養に魅力が集まるようになる。また,学位取得者の就職先の官職が世襲で独占され,余剰学位取得者が生まれる。この批判が出回ったことも大きい。この時期の大学の危機は,教育の形骸化が問題ではなく,当時の大学のイメージや社会での役割に生じた危機。
  • この時期,学位は容易に取得できるようになり,その数は計画的に急増した。試験の不正行為,学生の欠席,教員の欠勤,不十分な討議などが出始める。真の教育は大学の外,すなわち,親から子やサロンでの会話で獲得されるものとなる。
  • これに対する大学改革はドイツ・プロテスタント圏で始まる。ゲッティンゲン大学は,国家による管理,上流階級向け科目開設(舞踏,乗馬),現代的科目の開設(歴史,地理,物理,数学,行政学),ゼミナールの導入を行う。
現代の大学問題と同様の構造が過去にもあったことがよくわかる一冊。

    2011/02/14

    高田ケラー有子(2005)『平らな国デンマーク―「幸福度」世界一の社会から』日本放送出版協会


    • 王室行事に関して,子供が主役になる何かを考える国民性。
    • 保育園では,季節を問わず外で昼寝をする。肺を強くし,夜の眠りを深くさせるとか。
    • 病院が遊び心満載で学習に参加する。クマが緊急入院して迎えにくるよう手紙を書くなど。
    • 小学校では成績を出さず,年に2回保護者と教師の面談をする。能力評価は,1年生ではお話を絵にすることで評価する。真ん中に線を引き,その上に気を三本書き,そのうち一本にリンゴを三つ書きなさい。
    • 高校を卒業すると,クラス全員の家を回るトラックが走り回る。
    • 18最上の学生に支給される奨学金があり,財源は税金。卒業要件を満たす年数+1年支給がポイント。奨学金で生活できるシステムがある。
    • 進学前に1年働くなどが多いのは,進学のポイントシステムに加算されるため。
    • 進学は学びたいから学ぶ,修了も学び終えるまで学ぶ。4年の年限で平均,5年から5年半。
    • 子供の歯科は,小中学校に併設されたクリニック。学校と一体化で子供に身近な存在となる。18歳までは全て無料。
    • 労使は5月に年間5週間分の休暇計画を立てる。
    • 年金開始年齢は67歳から65歳に下げられた(2004年)。

    2011/02/13

    吉田新一郎(2005)『校長先生という仕事』平凡社新書


    • 学校教育法上,校長は管理者・監督者。設置義務者の教育委員会に代わって管理するための規則しかない。人事権は校長になく,職員会議は校長事務の円滑な補助という位置づけ。教え方の改善・研修は項目になく,誰に研修の責任があるかも不明。
    • 校長になるための事前の研修はなく,役割を果たすための研修が昇任後にあるのみ。当然,実力もリーダーシップも多様。
    • 日本では3年で校長が替わるが,外国から見ればそれで学校を良くできるわけない。
    • 研修は美しいあるべき論を語るために不評,リーダーシップに注目が集まるが,現状の資質や力量が考慮されないため,独裁経営と勘違いする者もいる。
    • 継続的な学びでは,本を読むことが重要。
    • 同僚性は,実践について話し合う,相互に観察し合う,カリキュラム(授業・単元)を一緒に作る,互いの教え合うという4つを実践した時に生まれるもの。日本の職員室ではそうしたことがなく,部屋の設計もそのようになっていない。
    • チームはぞんざいに作っても機能しない。外国では基準を明確にした上で,校長が教員を連れてくることができるが,日本はそれができない。表面上馬が合うよう装うことは相当のエネルギーを使い,子供の学びに関心を向ける力が残らない。
    • リーダーは立場,リーダーシップはスキルや資質。いいリーダーは,その人の存在さえ知られずに,自分たちがやったんだと言える人。
    • ビジョンは作る課程の方が大事。校長が必要と思わなければならないが,一人で書き上げるものではない。
    • 変化にまつわる誤解
      • 変化は上から押しつけることができる:賛同も納得もしないことをすることは困難
      • 変化はイベントである:変化はプロセス,意図や中身が伝わることの方が稀
      • 問題はない方が良い:問題がなければ学べない,問題発見・問題解決能力の方が重要。試すことが許されない,意見の相違を避けるのが学校の特徴。
      • 仲間作りを省く:目標が明確でリーダーシップがあれば変革できる者ではない。仲間を広げる地味な努力こそが重要。
    • 変化の原則
      • 影響を受けるものが意志決定に参加すること。
      • 学校を変えることは,中にいる人を変えること。
      • 変化への抵抗を当然視し,プラスに活かす方法を考える。
      • 文化の転換こそが重要。それには大量のコミュニケーションと強い信頼関係が不可欠。
    • 会議には振り返りの時間をあらかじめ組み込んでおく。参加して良かったこと・悪かったことを無記名で集める。
    • 協力・信頼関係は,教職員が一丸になって気づく必要はない。言いたいことが言え,自分をさらけ出せる数名のチームでプロジェクトに取り組めればよい。
    • プロ教師は,教えることよりも学ぶことを重視する,大切な中身に生徒が主体的に取り組むことを重視する,自分のすることではなく生徒がすることや作り出すものに焦点を当てる,常に同僚と協力する,研究の成果を使いこなす,リーダーとして機能する。
    • 多様な研修:交換日記,相互観察,読書サークル
    • 自分の判断で使えるお金があることは,プロとしての第一歩。

    2011/02/10

    Middaugh, Michael F. (2009) "Closing the Loop: Linking Planning and Assessment," Planning for Higher Education, 37(3), 5–14.

    • 戦略立案や自己点検に取り組む大学は多い。しかし問題は,苦労して収集された評価データが,計画立案にほとんど活かされていない点である。
    • デラウェア大学は全学的PBLで有名だが,それは機関データを収集し,それをベンチマークし,必要な改善策を検討する中で生まれ,実行されてきた。そして,計画後は,PBL用の教室棟を建てるなど,着実な進捗に取り組んできた。
    • ただし,これはデパートメントの閉鎖危機があるなど,アメリカならではの事例。解釈や日本への援用には慎重を要する。