2013/08/20

原田勉(2010)『実践力を鍛える戦略ノート』東洋経済新報社


  • 経営戦略を効果的に学習するには,理論的な学習は最低限にして,出来るだけ多くのケース演習を積み重ねる中で戦略的思考や問題解決能力を身につけることがポイント。
  • ケース演習の目的は,事前に想定した正解を得ることではなく,各自が知力を振り絞って何らかの解にたどり着くこと,その解を参加者同士で議論しながら何らかの教訓(=分析のポイントや注意事項≠正解)を引き出すことにある。
  • この本では,経営戦略を「資源配分+シナリオ」と定義する。経営戦略は必ず資源配分を伴い,その背後にあるシナリオを綿密に計画することで成功の蓋然性を高める。
  • 戦略が資源配分であるなら,戦術は資源運用であるが,この線引きは簡単ではなく,むしろ両者は相対的な概念である。戦略の立案は簡単であることも多く,戦術の立案こそ,現場の経験,知識,ノウハウ,知恵が要求される。戦略立案は事業部に数名で十分だが,社員の大半が戦術立案・実行者であることの方が重要。
  • シナリオは,経営資源と外部環境との適合をつくり出すことである。強みがはっきりしているなら,強みを強化すればよいが,環境が適合しないならこだわると危険。よって,両者を別々に検討して,組み合わせをチェックする方がよい。
  • PPMは単純に考えるためのもので,横軸に市場シェア,縦軸に市場成長率(市場魅力度)を取ってシナリオを描くもの。ただし,PPMは事業をどのように定義するかで結果が全く異なる点に注意(カメラメーカーとして定義するか,フィルム事業部,デジタルカメラ事業部ごとに定義するか)。
  • 事業戦略では,事業のコンセプト(誰に,何を,どのように)を定義することから始まる。具体的には,同じ要望を持つ特定の顧客層にターゲットを絞り,顧客が感じる主観的な価値や効用を定め,いかにしてそれを提供するかであるが,競争優位の差につながる部分は価値の提供方法にある。
  • 事業コンセプトは,視点を変えると顧客,競争相手,自社,販売網という4つのCを取り巻く関わりを考えることでもある。この中で最も重要なのは,競争相手ではなく顧客を見てコンセプトを構想する点にある。
  • 組織を分析するための組織図は,事業コンセプトを考える際には不都合。組織図は,内部の都合を表したもので,顧客を中心に検討されたものではないため。
  • 戦略グループマップは,2つのレベルの競合状態を2次元軸で表したもの。例えば,戦略グループ間と戦略グループ内(軽自動車中心の企業と,フルラインメーカー)など。
  • 業界構造分析をしなさい,とは業界の魅力度を評価するもので,競合企業間の敵対度,顧客の交渉力,供給業者の交渉力,新規参入の脅威,代替品の脅威の5つを評価すること。具体的には次の点。
    • 敵対度:業界成長率,企業の集中度,付加価値に占める固定費の割合,過剰設備の存在,製品差別化の程度,ブランド識別力,スイッチングコスト,情報の複雑性,競合企業の多様性,退出障壁
    • 顧客の交渉力:顧客の集中度,購買量,スイッチングコスト,顧客の持つ情報,顧客の利益,価格への反応度,全購買に占める割合,製品差別化,プラン度識別力,後方統合への能力,品質や成果へのインパクト,意思決定者のインセンティブ
    • 供給業者の交渉力:スイッチングコスト,インプットの差別化の程度,供給業者の集中度,代替インプットの存在,供給業者にとっての量の重要性,インプットのコストや差別化への影響,前方・後方統合への脅威,総コストに占める割合
    • 新規参入の脅威:規模の経済性,ブランド識別力,必要投下資本量,製品差別化の程度,スイッチングコスト,販売網へのアクセス,習熟効果の程度,インプットの確保,既存企業からの反撃可能性,政府による規制
    • 代替品の脅威:代替品のコストパフォーマンス,スイッチングコスト,顧客の代替嗜好性
  • SWOTは戦略オプションを考えるために使うもので,SWOTの要因列挙だけでは意味がない。その戦略オプションの基本パターンは,コストリーダーシップ,差別化,集中の3つ。
  • SWOTでは,みんなが脅威と感じていることに機会を見出すことに成功の鍵がある(アスクルの系列販売網を持たないことなど)。
  • 損益分岐点に達するとは,売り上げから変動費を引いた利益(=限界利益)が固定費をカバーしたとき(=損益ゼロ)。
    • 限界利益率=限界利益/売上=(売上ー変動費)/売上=価格ー単位当たり変動費
    • 損益分岐点=固定費/限界利益率
     ケース学習を演習問題型で提供する点は,とてもよい試みだが,前置きとなる解説が多すぎる点が残念で,もっと演習中心で編集してもよかった。このケースブックでは,事例に示された数字を正確に読み取る力を重視している。実際に問われるケースクエスチョンは,大雑把でケース独特のものではなく,どのケースでも共通するもの。