本論文は、規模と範囲の経済性の実証研究の一環として、米国の同質な大学(州立の総合大学)を対象に学部レベルの費用構造を分析するものである。枠組みは一連の研究と同様であるが、大学レベルでの分析がほとんどであったのに対して、学部レベルのデータを使って分析する点が特徴で、機関の意思決定などが学部レベルで行われている中では、機関レベルの分析では政策提言に反映しにくいためである。しかし、実際の分析ではプールデータに学部ダミーを入れて推計するので、やや迫力には欠ける。ただ、アウトプットの質を考慮するために、学部の外部評価の指標を質のコントロール変数として使用した点は、先行研究の壁を突破した注目すべきものである。結局、次の費用関数を推定することになる。
C(y) = a0 + Σai(yi-yimean) + (1/2)ΣΣ(yi-yimean)(yj-yjmean) + bQ + ΣdiDi + ε
データで特徴的な点は、教育のアウトプットとして年間の学生に授与した単位数を学部・修士・博士で集める点(これにより学部間で相互提携している教育活動まで捉えることができる)と、研究のアウトプットを論文数でカウントする点である。質の指標はNational Study on Graduate Programsから取っている。州立大学では学部のオープンアクセスポリシーから、大学院の質とかなりの乖離があることが指摘されているためであろう。とはいえ、学部レベルでこれらのデータを利用できる点が日本の状況と異なる点である。 結論として、(1)AICとMCは研究で最も高く、学部教育で最も低い、(2)社会科学の分野で最も低コスト、工学の分野で最も高コスト、(3)規模効果、範囲効果とも存在する、という結果を得る。この結果自体は、それほど新しいものというわけではない。 学部間で教育・研究の生産技術に違いがあることを考慮すれば、関数の推定は概ねうまくいっていると言えるだろう。新たな貢献といえる質をコントロールした結果だが、係数は有意に推定されず、同質的な大学がサンプルであったためであるという解釈をするにとどまっている。この一連の研究では、データセットの違いの差別化になってきており、研究としての発展性が苦しいように思える。安易な統計分析で終わらずに、モデルのセットアップとインプリケーションの議論にもう少し力が注がれるべきと思う。