2008/03/19

松繁寿和(2004)『大学教育効果の実証分析』 日本評論社

 本書は大阪大学の研究室が卒業生アンケート調査から得たデータに基づいて、卒業生のキャリアや給与が大学時代の属性にどの程度依存するかを統計的に分析するものである。本書で分析される問題をまとめると、次の通りである。(1)卒業した学部間の経済格差が存在するか否か、(2)在学時の成績とクラブ活動が就職活動の成功に有意な影響があるか否か、(3)在学時の成績が初任給の決定にどのような影響があるか、(4)英語力を高めることは昇進や所得に有意な影響があるか、(5)公務員・教員で男女間に賃金格差が存在するか、といった問題について分析を行う。  基本的な分析手法は、就職活動時の会社の志望順位、平均初任給からの乖離分、職位などの被説明変数を学部、所属クラブのタイプやクラブに置ける役職などに年齢や勤続、性別等の基本的な変数を加えた説明変数群へ回帰するという形の分析である。その中で、Oaxaca分解という分析手法が紹介されていたのでここで見てみたい。今、AとBという二つのグループがあるとすると、それぞれの平均賃金は次のように表される。

 ln(wa) = βaxa  ln(wb) = βbxb

ただし、βはグループの賃金構造、xはグループの説明変数を表す。すると二つのグループの賃金格差は、Aグループを基準とすると次のように表すことができる。

 ln(wa) - ln(wb) = βaxa - βbxb + βaxb - βaxb = βa(xa - xb) + (βa - βb)xb

この第1項が変数の差、第2項が係数の差をとらえたものとなり、賃金格差を分解することができる。分解には、グループごとの説明変数の係数とその平均値が必要になるため、グループごとに賃金関数を推定を行うことになる。  この研究の興味深い点は、これまで労働経済学や高等教育の研究者があまり取り組んでこなかった分野を切り開いたこと、そのブレークスルーとなったのが大阪大学の卒業生を対象とした詳細なアンケート調査とその集計・分析であったことの二点である。様々な分析自体はこれからまだまだ精緻化されていく余地を残しているが、フォロワーはこの分析を足がかりに進めることになるだろう。研究の余地を埋める意味でも興味深いし、卒業生調査の方向性を考える上でも興味深い。日本における貴重な研究の一つである。