2008/03/28
城繁幸(2006)『若者はなぜ3年で辞めるのか?』光文社新書
本書は、大卒ホワイトカラーの若者が直面する年功主義の壁を指摘したものである。仕事をすぐ辞める若者を忍耐不足という者もいるが、若者が感じる年功主義に対する閉塞感が問題であり、若者と企業の双方にとってマイナスと指摘する。
年功序列というシステムは、うまく乗ることができれば十分魅力的なゴールに着けるシステムである。ただ、多くの者がこれに乗れなくなったことが、問題の本質と指摘する。
事例が豊富で大変優れた本であるが、本書のメッセージは上の一点のみで、あとは同じ話の繰り返しであった。
以下、興味深い指摘のメモ。
採用も本社一括から、事業ごとの採用となり、学生側は自分が何をしたいか、どういう分野で成長した以下を考えさせられることになる。これに対応できる優秀なグループが就職することになるが、彼らは入社後に実際の業務と希望した業務のギャップ(従来型の下積み訓練)に苦しむ。
2008/03/21
安西徹雄(1995)『英文翻訳術』ちくま学芸文庫
本書は、英文学者が翻訳上のノウハウをまとめたものである。しかし、読み始めるまで知らなかった点は、本書が1982年に出された本を文庫化したものであり、かなり古い文献であることだ。
翻訳原稿を書くことも多いので、一度はこの手の本を読んでおこうと思ったが、それほど新しい発見はなかった。翻訳は英語力も大事だが、それ以上に日本語力が大事で、筆者もそれを指摘している。英文読解と翻訳は根本的に違う。これまでの自分の翻訳はかなりうまい方ではないかと、逆に自信になった。
以下、目に留まった点のメモ。
- 英文は頭から順に訳す
- 代名詞は訳文から隠す
- 他動詞+再帰代名詞は、自動詞か受け身で訳す
- (If the readers wish to inform themselves of the pressing problems of the day... など)
- 次の形容詞・副詞は、述語で訳す:no, many, few, much, little, some
- 話者の見解を示す副詞は、述語的に訳す:rightly, safely, apparently, inevitably
- 進行形には、非難・不快・困惑・賞賛などの感情的ニュアンスがある
- 時制の一致(I did not know what I was doing = 何をしているのかわからなかった)
- 受動態は、能動で訳す。主語が人、あるいは人にとっての利害を表すときだけ受動で訳す。
2008/03/19
松繁寿和(2004)『大学教育効果の実証分析』 日本評論社
本書は大阪大学の研究室が卒業生アンケート調査から得たデータに基づいて、卒業生のキャリアや給与が大学時代の属性にどの程度依存するかを統計的に分析するものである。本書で分析される問題をまとめると、次の通りである。(1)卒業した学部間の経済格差が存在するか否か、(2)在学時の成績とクラブ活動が就職活動の成功に有意な影響があるか否か、(3)在学時の成績が初任給の決定にどのような影響があるか、(4)英語力を高めることは昇進や所得に有意な影響があるか、(5)公務員・教員で男女間に賃金格差が存在するか、といった問題について分析を行う。 基本的な分析手法は、就職活動時の会社の志望順位、平均初任給からの乖離分、職位などの被説明変数を学部、所属クラブのタイプやクラブに置ける役職などに年齢や勤続、性別等の基本的な変数を加えた説明変数群へ回帰するという形の分析である。その中で、Oaxaca分解という分析手法が紹介されていたのでここで見てみたい。今、AとBという二つのグループがあるとすると、それぞれの平均賃金は次のように表される。
ln(wa) = βaxa ln(wb) = βbxb
ただし、βはグループの賃金構造、xはグループの説明変数を表す。すると二つのグループの賃金格差は、Aグループを基準とすると次のように表すことができる。
ln(wa) - ln(wb) = βaxa - βbxb + βaxb - βaxb = βa(xa - xb) + (βa - βb)xb
この第1項が変数の差、第2項が係数の差をとらえたものとなり、賃金格差を分解することができる。分解には、グループごとの説明変数の係数とその平均値が必要になるため、グループごとに賃金関数を推定を行うことになる。 この研究の興味深い点は、これまで労働経済学や高等教育の研究者があまり取り組んでこなかった分野を切り開いたこと、そのブレークスルーとなったのが大阪大学の卒業生を対象とした詳細なアンケート調査とその集計・分析であったことの二点である。様々な分析自体はこれからまだまだ精緻化されていく余地を残しているが、フォロワーはこの分析を足がかりに進めることになるだろう。研究の余地を埋める意味でも興味深いし、卒業生調査の方向性を考える上でも興味深い。日本における貴重な研究の一つである。
ln(wa) = βaxa ln(wb) = βbxb
ただし、βはグループの賃金構造、xはグループの説明変数を表す。すると二つのグループの賃金格差は、Aグループを基準とすると次のように表すことができる。
ln(wa) - ln(wb) = βaxa - βbxb + βaxb - βaxb = βa(xa - xb) + (βa - βb)xb
この第1項が変数の差、第2項が係数の差をとらえたものとなり、賃金格差を分解することができる。分解には、グループごとの説明変数の係数とその平均値が必要になるため、グループごとに賃金関数を推定を行うことになる。 この研究の興味深い点は、これまで労働経済学や高等教育の研究者があまり取り組んでこなかった分野を切り開いたこと、そのブレークスルーとなったのが大阪大学の卒業生を対象とした詳細なアンケート調査とその集計・分析であったことの二点である。様々な分析自体はこれからまだまだ精緻化されていく余地を残しているが、フォロワーはこの分析を足がかりに進めることになるだろう。研究の余地を埋める意味でも興味深いし、卒業生調査の方向性を考える上でも興味深い。日本における貴重な研究の一つである。
2008/03/18
Dundar, H. and D. Lewis (1995) "Departmental Productivity in American Universities: Economies of Scale and Scope," Economics of Education Review, pp.119-144.
本論文は、規模と範囲の経済性の実証研究の一環として、米国の同質な大学(州立の総合大学)を対象に学部レベルの費用構造を分析するものである。枠組みは一連の研究と同様であるが、大学レベルでの分析がほとんどであったのに対して、学部レベルのデータを使って分析する点が特徴で、機関の意思決定などが学部レベルで行われている中では、機関レベルの分析では政策提言に反映しにくいためである。しかし、実際の分析ではプールデータに学部ダミーを入れて推計するので、やや迫力には欠ける。ただ、アウトプットの質を考慮するために、学部の外部評価の指標を質のコントロール変数として使用した点は、先行研究の壁を突破した注目すべきものである。結局、次の費用関数を推定することになる。
C(y) = a0 + Σai(yi-yimean) + (1/2)ΣΣ(yi-yimean)(yj-yjmean) + bQ + ΣdiDi + ε
データで特徴的な点は、教育のアウトプットとして年間の学生に授与した単位数を学部・修士・博士で集める点(これにより学部間で相互提携している教育活動まで捉えることができる)と、研究のアウトプットを論文数でカウントする点である。質の指標はNational Study on Graduate Programsから取っている。州立大学では学部のオープンアクセスポリシーから、大学院の質とかなりの乖離があることが指摘されているためであろう。とはいえ、学部レベルでこれらのデータを利用できる点が日本の状況と異なる点である。 結論として、(1)AICとMCは研究で最も高く、学部教育で最も低い、(2)社会科学の分野で最も低コスト、工学の分野で最も高コスト、(3)規模効果、範囲効果とも存在する、という結果を得る。この結果自体は、それほど新しいものというわけではない。 学部間で教育・研究の生産技術に違いがあることを考慮すれば、関数の推定は概ねうまくいっていると言えるだろう。新たな貢献といえる質をコントロールした結果だが、係数は有意に推定されず、同質的な大学がサンプルであったためであるという解釈をするにとどまっている。この一連の研究では、データセットの違いの差別化になってきており、研究としての発展性が苦しいように思える。安易な統計分析で終わらずに、モデルのセットアップとインプリケーションの議論にもう少し力が注がれるべきと思う。
C(y) = a0 + Σai(yi-yimean) + (1/2)ΣΣ(yi-yimean)(yj-yjmean) + bQ + ΣdiDi + ε
データで特徴的な点は、教育のアウトプットとして年間の学生に授与した単位数を学部・修士・博士で集める点(これにより学部間で相互提携している教育活動まで捉えることができる)と、研究のアウトプットを論文数でカウントする点である。質の指標はNational Study on Graduate Programsから取っている。州立大学では学部のオープンアクセスポリシーから、大学院の質とかなりの乖離があることが指摘されているためであろう。とはいえ、学部レベルでこれらのデータを利用できる点が日本の状況と異なる点である。 結論として、(1)AICとMCは研究で最も高く、学部教育で最も低い、(2)社会科学の分野で最も低コスト、工学の分野で最も高コスト、(3)規模効果、範囲効果とも存在する、という結果を得る。この結果自体は、それほど新しいものというわけではない。 学部間で教育・研究の生産技術に違いがあることを考慮すれば、関数の推定は概ねうまくいっていると言えるだろう。新たな貢献といえる質をコントロールした結果だが、係数は有意に推定されず、同質的な大学がサンプルであったためであるという解釈をするにとどまっている。この一連の研究では、データセットの違いの差別化になってきており、研究としての発展性が苦しいように思える。安易な統計分析で終わらずに、モデルのセットアップとインプリケーションの議論にもう少し力が注がれるべきと思う。
2008/03/17
Dundar, H. and D. Lewis (1998) "Determinants of Research Productivity in Higher Education," Research in Higher Education, pp.607-631.
本論文は、大学における研究のパフォーマンスを決定する要因の抽出を目的とした分析を行っている。研究の生産性を分析した研究はこれまでにも数多く行われているもので、それらは大きく分けて、個人の生産性を計測する分析と学部・大学レベルでの生産性を計測する分析に分けられる。従来は個人の生産性を対象とした研究が多かったが、本論文は学科レベルの研究の生産性をいくつかの説明変数へ回帰するモデルを推計する分析を行っている。具体的な分析は、大学における学科iの平均研究出版物の数を生産性として、先行研究で使われた変数を使って分析する。その変数には、教員数(とその自乗項)、教員数/大学院生数比率、大学院生のうちRAに採用されている学生の割合、図書館の支出額、公立・私立ダミー、教員に占める教授の割合などを含めて回帰分析を行う。これらのデータは、1993年のNational Research Councilの調査からとられており、17の学問領域を対象にして集計されている。そのうち、データは90の研究大学を対象に1841の博士課程プログラムをサンプルとして使用する。推定では、すべての領域をプールした推計に加え、生物学、工学、物理学・数学、社会科学の領域にサンプルを限定した推計も行っている。
Pi = a0 + a1 Fi + a2 Fi2 + Σaj Xij + ε
全ての領域をプールした結果としては次のような機関評価を提言している。(1)学科のサイズが大きいほど研究論文のパブリッシュも多い、(2)公立・私立ダミーは概して有意に負に推定されており、公立大学より私立大学のほうが研究の生産性が高い、(3)正教授職が多いほど研究の生産性も高い、(4)パブリッシュの集中度をみたジニ係数からは、スター教授に依存している傾向はみられない、などの結果を得ている。これら一連の研究では、研究のアウトプットを測る代理変数として論文数が適当かという議論、さらに書籍や査読論文から学会報告の予稿までどこまでがアウトプットになるのか、それらがどの程度正確にカウントできるのかという問題もある。
まだ日本ではあまり行われていない研究ではあるが、バックグラウンドとなるモデルがないままとりあえず論文数を直観的に説明すると思われる変数で回帰したという印象が否めない。しかし、政策を提言するということなら、とりあえずこういう分析でもありなのかもしれない。しかし、その場合推定式のバリエーション(説明変数の組み合わせ)は無限になり、やはり背後のモデルが重要なのではないかと思う。
Pi = a0 + a1 Fi + a2 Fi2 + Σaj Xij + ε
全ての領域をプールした結果としては次のような機関評価を提言している。(1)学科のサイズが大きいほど研究論文のパブリッシュも多い、(2)公立・私立ダミーは概して有意に負に推定されており、公立大学より私立大学のほうが研究の生産性が高い、(3)正教授職が多いほど研究の生産性も高い、(4)パブリッシュの集中度をみたジニ係数からは、スター教授に依存している傾向はみられない、などの結果を得ている。これら一連の研究では、研究のアウトプットを測る代理変数として論文数が適当かという議論、さらに書籍や査読論文から学会報告の予稿までどこまでがアウトプットになるのか、それらがどの程度正確にカウントできるのかという問題もある。
まだ日本ではあまり行われていない研究ではあるが、バックグラウンドとなるモデルがないままとりあえず論文数を直観的に説明すると思われる変数で回帰したという印象が否めない。しかし、政策を提言するということなら、とりあえずこういう分析でもありなのかもしれない。しかし、その場合推定式のバリエーション(説明変数の組み合わせ)は無限になり、やはり背後のモデルが重要なのではないかと思う。
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