本論文の要旨は、タイプIIIのトービットモデルでよく用いられる推定法である、ヘックマンの2段階推定量は効率的でないという点に尽きる。通常、このモデルでは尤度関数が複雑になるため、ニュートン法などのアルゴリズムでは尤度関数が最大化できない(最大値へ収束しない)ことがよくある。そのために、推定の容易なヘックマンの2段階推定を用いるわけだが、これも実はかなり昔からその問題点が指摘されており、真のパラメータと異なる推定値を得るケースも指摘されている。
そういう意味でこの論文のメッセージは、ややいまさらな感があるが、新しい点はモンテカルロシミュレーションにより、ヘックマンの2段階推定量と最尤推定量の歪みや効率性を具体的に示したという点である。また、最尤推定量を得る際の数値計算の方法として、自身が提唱している(?)スキャニング法というアルゴリズムを用いている。
通常のタイプIIIトービットの尤度関数であれば、TSPとかでも十分計算可能と思われるが、この論文では労働供給関数を推定しているために尤度関数が複雑になりすぎ、このようなアルゴリズムが必要になっている。しかし、Greeneの20.3.3に書いてあるような、パラメータの置き換えでこの問題は回避できないのか?自分で適当な計算でもしてみて後日確かめてみることにする。
2007/12/25
2007/12/23
Nelson, F. (1984), "Efficiency of the Two-Step Estimator for Models with Endogenous Sample Selection," Journal of Econometrics, pp.181-196.
本論文はサンプルセレクションモデルにおいて、ヘックマンの2段階推定量と最尤推定量の効率性の違いについて検討するものである。数値計算は実際のデータではなく、シミュレーションによって計算し、推定された分散比較を行っている。
一点だけ注意したいのが、xとλ(z)の相関を測る度合いとしてR2を考える点で、本論文ではR2が外生的相関(回帰式の説明変数(外生変数)とセレクションを決める外生変数の相関)、ρをが内生的相関(セレクションを決定するrandom componentと従属変数の相関)を表す尺度として考慮する点である。
結論は次の通りである。OLS、Two-Step、MLEの効率性は、外生的相関と内生的相関で決まるといえる。
一点だけ注意したいのが、xとλ(z)の相関を測る度合いとしてR2を考える点で、本論文ではR2が外生的相関(回帰式の説明変数(外生変数)とセレクションを決める外生変数の相関)、ρをが内生的相関(セレクションを決定するrandom componentと従属変数の相関)を表す尺度として考慮する点である。
結論は次の通りである。OLS、Two-Step、MLEの効率性は、外生的相関と内生的相関で決まるといえる。
- OLSはどちらも存在しなければバイアスはないが、二つの相関とともにバイアスが大きくなる。
- Two-Stepは内生的相関とは比較的安定的であるが、外生的相関とともにバイアスが大きくなる。
- endogenous sanplingのTwo-Stepテストの検定力は、外生的相関とともに落ちる。
- MLEの分散は内生的相関とともに急速に小さくなる。
- MLEの分散は、内生的相関があるときには外生的相関があってもあまり大きくならないが、内生的相関がないときは外生的相関とともに大きくなる。
- MLEのendogenous sanplingの検定力は、外生的相関によってのみ低下する。
2007/12/19
大竹文雄(2005)『経済学的思考のセンス』中公新書
本書は、インセンティブの観点から社会を観察し因果関係を見つけ出すというメッセージの経済学紹介文献である。経済学というと株とか金融とか需要曲線とかがすぐに連想される。しかし、このインセンティブこそが経済学分析の肝であり、そこが面白さと魅力なのだが、専門家以外にはなかなか知られていない。本書は、一般向けにこのことを示した良書である。
- 経済学的思考法とは、人々のインセンティブを重視した意思決定メカニズムから考え直すこと。
- 格差は努力を促すために必要だが、格差をつけすぎると運による差が努力の差と間違うリスクが大きくなり、危険回避的個人は運による格差を小さくすることを望むが、格差がないとやる気を失う。リスクとインセンティブのトレードオフ。
- 時間非整合性の問題を解決するには、コミットメント(最初に決めたことを変えないこと)が必要。アメリカの肥満をこれで説明できる。
- プロスポーツのように一人勝ちが必ずしも最大所得とならないのがルイス=シュメリングの逆説。
- 成果主義はどのような仕事のやり方をすれば成果が上がるかについて採用側がわからない場合、授業員の仕事ぶりを評価することが難しいが成果の評価が正確にできる場合、に行うべき。
- 自信過剰説:人間は成功確率が30%を切ると危険愛好的に、80%を上回ると危険回避的になる傾向がある。よって成功の可能性が低いものについては、その成功確率を過大評価する場合がある。
- トーナメントでは、参加者の能力差が小さい時に賞金格差を大きく、能力差が大きければ賞金格差を小さくするする方が、参加者の努力をより引き出せる。
- 日本の長期雇用慣行の労働者比率は、もともと20~30%。
- 賦課方式年金が成り立つのは、損をするか得をするかわからない状況で、その不確実性に対処するために保険契約を結ぶ場合。人口成長率・経済成長率が長期にマイナスになることが予測されると、公的年金は損がわかった投資を強要することになり賦課方式は成り立たない。
- 予想外に寿命が延びた70歳以上世帯への所得移転は合理的だが、生まれたタイミングで年金の収益率が大幅に異なる中で行うねずみ講には参加できない。少子化でねずみ講を維持するには、収益率の引き下げか大量の移民受け入れしかない。既得権を崩すには、国民年金を未納にして公的年金破綻の時期を早めるという行動がある。
- 習慣形成理論:同じ額を受け取るとしても年功型を選ぶ人が多い。
- 損失回避:一定額の得をすることによる満足度の増え方よりも、同額の損をすることによる満足度の低下の方が非常に大きい。確実に小額の損ができずに、大幅な損をする、人間は損切りができない。
- 従業員の危険回避度が高いなら、賃下げ・ワークシェアリングができ、損失局面で危険愛好的になる場合は人員削減を受け入れやすい。
- 引退後の所得のばらつきが、見かけの不平等度を増加させている場合がある。
- 恒常所得仮説(消費は将来にわたり期待できる平均的な所得に左右される)によれば、消費格差を見ることで不平等が見えやすくなる。
2007/12/16
勇上和史(2005)「都道府県データを用いた地域労働市場の分析」『日本労働研究雑誌』no.539, pp.4-16.
都道府県別失業率の維持転換の相関は高く、失業の地域的パターンは安定的。この硬直性をもたらす要因の1つが、労働移動を通じた市場の調整機能の弱さ。90年と00年の国勢調査から、失業率の都道府県間格差を、
u = a + bX + cD + e
という線形失業率関数でとらえる。uはグループi(居住都道府県・性別・年齢階層・学歴の労働力状態)の平均失業率、Xがグループの労働需給属性(女性・年齢階層・学歴の各ダミー・グループ内の産業別就業者構成比)、Dが居住都道府県ダミーを表す。都道府県ダミーのばらつきで都道府県間失業率格差を見る。
労働需給構造をコントロールすると、地域間格差は大きく縮小する。しかし、近年では地域間の実質賃金コストの格差と、受容減退の地域差による地域間格差拡大が見られる。要するに、地域別の産業構造の違いで地域間格差のばらつきは説明できるが、不況期には地域別の需要減退差がもたらす拡大が見られるようになる。失業率が高い地域ほど、求職意欲喪失効果は大きく、近年では特に若年層でその傾向が強くなる。
u = a + bX + cD + e
という線形失業率関数でとらえる。uはグループi(居住都道府県・性別・年齢階層・学歴の労働力状態)の平均失業率、Xがグループの労働需給属性(女性・年齢階層・学歴の各ダミー・グループ内の産業別就業者構成比)、Dが居住都道府県ダミーを表す。都道府県ダミーのばらつきで都道府県間失業率格差を見る。
労働需給構造をコントロールすると、地域間格差は大きく縮小する。しかし、近年では地域間の実質賃金コストの格差と、受容減退の地域差による地域間格差拡大が見られる。要するに、地域別の産業構造の違いで地域間格差のばらつきは説明できるが、不況期には地域別の需要減退差がもたらす拡大が見られるようになる。失業率が高い地域ほど、求職意欲喪失効果は大きく、近年では特に若年層でその傾向が強くなる。
2007/12/13
内閣府経済社会総合研究所(1998)「エコノミストによる教育改革への提言」教育経済研究会報告書
長期的には、公的規制は撤廃し、公的補助は研究プロジェクトへの補助と奨学金に重点を移し、大学の形態によらず競争条件を同一として「良い教育を提供する大学では、消費者がそのために必要なコストを負担する」という他のサービスでは当然の関係が成り立つようにするべき。
能力に差のある個人からなる社会があり、個人は費用と便益に応じて高等教育需要を決定する。高等教育は選抜なしに需要に応じて供給されるとき、国立大という均質な教育を均一授業料で供給する機関と、私大という質の異なる教育を費用に応じて供給する2つのタイプの高等教育機関があるとどうなるか。政府が、授業料で賄えない国立大の費用と、私大を選択する個人への補助金を払う。
効用関数を、u = √nq - p 、留保水準をu0 = y0 、nが個人の能力、qが教育の質、pが授業料、y0が高卒所得とする。国立を選択した場合の効用をu1 = √nq1 - p1とする。私大の授業料をp2 = 1/2q^2 - s、sは学生一人当たり政府補助金とする。私大を選択した場合の効用はu2 = max {√nq2 - p2} s.t. p2 = 1/2q^2 - sとする。個人の能力がnlからnhまで分布するとすると、個人は高卒・国立・私立のなかから効用が最も高い選択をする。政府の教育予算Tは、T = q1F1 + sF2 - p1F1とする。この状況下では、私大の質の需要はq = √n、効用はu2 = 0.5n + sに決まる。
このとき、国立大の授業料を下げることは質を上げることになり、私大補助を増やすことは私大選択者を増やす。国立選択者の効用を下げずに、私大補助を増やすことはできるか?政府予算制約を全微分すると、能力の分布が狭い時に可能かもしれない。このモデルでは、国立の質が一定という仮定が置かれているがどうなのか。
能力に差のある個人からなる社会があり、個人は費用と便益に応じて高等教育需要を決定する。高等教育は選抜なしに需要に応じて供給されるとき、国立大という均質な教育を均一授業料で供給する機関と、私大という質の異なる教育を費用に応じて供給する2つのタイプの高等教育機関があるとどうなるか。政府が、授業料で賄えない国立大の費用と、私大を選択する個人への補助金を払う。
効用関数を、u = √nq - p 、留保水準をu0 = y0 、nが個人の能力、qが教育の質、pが授業料、y0が高卒所得とする。国立を選択した場合の効用をu1 = √nq1 - p1とする。私大の授業料をp2 = 1/2q^2 - s、sは学生一人当たり政府補助金とする。私大を選択した場合の効用はu2 = max {√nq2 - p2} s.t. p2 = 1/2q^2 - sとする。個人の能力がnlからnhまで分布するとすると、個人は高卒・国立・私立のなかから効用が最も高い選択をする。政府の教育予算Tは、T = q1F1 + sF2 - p1F1とする。この状況下では、私大の質の需要はq = √n、効用はu2 = 0.5n + sに決まる。
このとき、国立大の授業料を下げることは質を上げることになり、私大補助を増やすことは私大選択者を増やす。国立選択者の効用を下げずに、私大補助を増やすことはできるか?政府予算制約を全微分すると、能力の分布が狭い時に可能かもしれない。このモデルでは、国立の質が一定という仮定が置かれているがどうなのか。
2007/12/11
Mueller, R. and Rockerbie, D. (2005) "Determining Demand for University Education in Ontario by Type of Student," Economics of Education Review, vol.24, pp.469-483.
本稿は、大学教育の需要関数を推計するというものであるが、オンタリオ州の大学を6つのグループに分け、それぞれのグループへの志願者数を、生徒の男女、出身機関別に回帰分析を行うというものである。需要関数は、
志願者数=f(ランキング、地域の実質平均所得、実質学費、実質失業率、実質高卒初任給、実質利子率)
というものである。これだけでいいのか。
志願者数=f(ランキング、地域の実質平均所得、実質学費、実質失業率、実質高卒初任給、実質利子率)
というものである。これだけでいいのか。
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