元濱奈穂子(2021)「高等教育の質保証改革の根本的メカニズム」『東京大学大学院教育学研究科紀要』61,511-520
- 質保証=誰にとっての質なのか、別の質はあり得ないのか、 という問いから逃れられない。→質保証システム自体が、改革が改革を呼ぶ再帰的性格を有する→改革を繰り返すだけでは質保証システムの 妥当性を向上させることはできない
- 認証評価制度開始当初の評価の重点は「教育の成果よりも大学内の教育プロセスの課題把握」(林 2020)→教育研究活動の自己点検や改善につながっているかどうか=内部質保証へと移っていく→現在は学習成果の可視化を重視
- この問題は2タイプの研究で把握されてきた
- 現状の質保証システムの課題を乗り越えるため に,今後のさらなる改革の必要性を提言するもの
- 望ましい将来像の提示に重きを置く
- ただし、現行システムが課題を抱えている理由に関しては、グローバル化やユニバーサル化といっ た大学を取り巻く状況の変化に触れる程度の説明しかしない
- 不断の改革の空虚性を批判するもの
- 改革が現場の疲弊を招いていること、現場の「脱連結」的な対応によって改革の形骸化が起こっていることを指摘する
- ただし、批判の多くは政策立案者に向けられ、質保証システム自体が内在する課題は看過
- Harvey and Green(1993)の5つの質
- 卓越性、完全性・一貫性、目的適合性、金銭的価値、変容
- →複数の達成すべき質が共存している
- →関係者たちはその事実に無自覚なままで「質保証」や「質改善」の議論を展開
- 評価団体による認証評価制度の狙い=目的への適合としての質
- →目的を何に設定するか によって評価が大きく変わる
- →誰にとっての目的で適合度をどのように測るのか?
- Harvey and Green(1993)=目的への適合としての質の評価の特徴は、インプット・アウトプットではなく、プロセスに焦点を当てた間接的な評価になる傾向がある→メカニズムがあれば質は保証できるという暗黙の前提
- →目的への適合としての質の評価は、質そのものではなく 組織が質を達成するためのプロセスを保持しているかどうかの評価
- →そのプロセスが結局のところ何を保証しているの かという疑念から逃れられない
- 認証評価の関心の変化:法令順守中心のミニマム・スタンダードの達成→学生が何を身に付け、大学はどう貢 献し、改善に努めているのかを社会に示す(野田 2020)
- 内部質保証重視への移行は、プロセスの評価を通して間接的に質を判定する認証評価制度の根本を覆すものではない
- 評価の対象:大学としての教育研究活動の質をよりよく推定すると見込まれる自主的・自律的な 質保証への取組の有無⇔教育研究活動の質そのものではない
- ただし、間接評価への疑念は提示された→「フォローアップ体制を整備する」=内部質保証の方法を指定することで、内部質保証を弱体化させた可能性
- 標準的な基準に準拠した評価は、質への責任を組織の成員から引きはがすことに繋がるため、質の文化の概念に馴染まない(Harvey and Green 1993)
- 成員が評価の枠組みを絶えず捉え直し、修正していくプロセスこそが、質の文化を維持するうえで重要
- 学習成果重視=質を直接的に評価する方向へとシフト→金銭的価値としての質の台頭
- 学習成果は、ステークホルダーと大学の間で共通理解を形成できる評価指標という前提
- →自身の教育研究にどれだけ金銭的価値があるかどうかを大学自身が示すことによって、大学が自律的に質を改善することが可能だという暗黙の前提
- 個々で生じる疑問:学習成果を定めることができるのは誰なのか?
- コンピテンス枠組みは広く共有されるための公共性と正統性を付与されること が望ましい(深堀)
- 意図された学習成果として機能することが期待されている分野別参照基準を、現場の第一線教員に回帰させるべき(広田)
- 全ての学修成果・教育成果を網羅的に把握することはできない(中教審大学分科会)
- 日本の質保証システムは、なぜ20年以上 にわたって改革を繰り返さざるを得なかったのか?
- これまでの改善=一部の批判をかわす効果はあったが、質の政治性や包摂性に関する別の論争を呼ぶことで新たな批判を生んだ
- →大学教育の質を評価することの根本的な限界を明確にしたうえで、その限界を補うための視点を考えるべき
- →質をめぐる政治性が、実際の質保証の手続きの中でどのように表出するのかをい、まずは実証的に議論すべき
- 新たな質の評価方法を提唱するのではなく、質をめぐる政治の中でこぼれ落ちやすい視点を拾い上げる=雇用可能性を意識した学習成果の設定と評価に対して懐疑的な教員たちであっても、現行の学習成果の枠組みを活用しながら、自身の納得のいく質の教育を実現する事例の蓄積