2022/05/27

舟津昌平(2019)「制度ロジック多元性下における組織のイノベーションマネジメント」『赤門マネジメント・レビュー』18(9), 117-146

  • 新制度派組織論(Institutional theory)=制度概念を用いて組織を検討する理論的パースペクティブ
    • 「組織が組織外部から影響を受ける」
    • ↑元を辿ればコンティンジェンシー理論(=旧制度論)
    • →新制度論=組織が制度の影響を受けて合理性や正当性を希求する
      • →組織の同型化が注目される(没個性、非効率など非合理的同型化とさえ見られた)
    • 問い:なぜ制度が同型化圧力を持つにも関わらず、一部は同型化しながら、組織は異なる行動を取るのか
      • →個々の組織が与する制度的環境が異なるから
      • 制度的環境の多元性を精緻化したい→制度ロジックの提唱
  • 制度ロジック
    • 個人と組織が物質的実存を再生産および時空間を組織化する基礎となる超組織的な活動のパターンであり、同時に、その活動のカテゴリ化および意味付与の基礎となる象徴システム(Friedland & Alford 1991)
    • 社会的に構築される、個々人が物質性を(再)生産し、時間と空間を組織し、また社会的現実に意味を与える、物質的実践、過程、価値、信念、規則のパターン(Thornton & Ocasio 1999)
      • ここで言う制度=「組織を取り巻く文化的環境」有形的で認識・参照可能なもの、つまり物質的側面と、無形的・暗黙的つまり象徴的側面の双方を含む定義
      • 制度(マクロ)・組織(メゾ)・個人(ミクロ)の三つの分析単位を採用するのも特徴
        • 超組織的なマクロ環境として「制度」の存在が想定されている
        • さらにこの「制度」は有限個に分類することが可能と考える→「制度セクター」と名付けて分類
          • 資本主義市場、官僚主義的国家、民主主義、核家族、キリスト教が特筆すべき制度セクター(Friedland & Alford 1991)
          • →市場、企業、専門家、国家、家族・血族、宗教の6つに整理(Thornton 2004)
    • (1)制度ロジック研究が前提とするマクロ単位の制度セクターは、少数の有限個に還元される
    • (2)組織単位におけるメゾの制度ロジックは、マクロ単位の制度ロジックがときに混淆や分化をすることで構成される
    • →複数の分析単位が使えることが制度ロジックの有用性
      • ⇔ 制度論で制度変化が説明できない、社会化過剰の組織論(組織や個人の主体性を看過)
    • →組織・個人の行為戦略を前提にしている
  • 合理性概念(rationality):制度ロジック研究における行為者の(物質的)実践について検討するうえでの鍵概念
    • 同型化概念:組織が正統性を獲得するために、ときに非効率性を受容してまで他の組織と同質的な形態をとる=組織が一律に(技術的)合理性に基づいて意思決定するという前提を揺さぶった
    • 一方で、正統性を得るために非合理性を受容する「非合理的同型化」という二項対立の理解を作ってしまった
    • マクロ単位における制度ロジックの変化が、組織や個人が没主体的に変化を受容したとするなら(=Thornton & Ocasio 1999やThornton 2004)、制度論における制度の入れ替えモデルや非合理的同型化などの理論課題を乗り越えたとは言えない
    • →「制度ロジック多元性」:業界や組織といった単位において複数の制度ロジックが関与し影響を持っている状態
  • 「組織レベルの精度ロジックは、マクロ単位における制度セクターに還元可能である」
    • 理論の重要な前提であるのに、組織レベルの制度ロジックがどのような制度セクターを基に生成されているのかの研究がない
  • 「制度ロジック多元性=複数の制度ロジックが存在する←なぜそれが組織によって異なるかという課題に答えてない」
    • →中心性と両立性(Besharov & Smith 2014)
    • 中心性:複数の制度ロジックが組織の機能に等しく有効となる・関連があると見なされる程度
    • 両立性:複数の制度ロジックの実体化が組織の行動に合致・強化する程度

  • 区分化戦略:多元な制度ロジックをドメインごとに切り分けることでコンフリクトを回避する戦略
    • イノベーションのマネジメントでは、多元な制度ロジックの維持・両立が重要(イノベーションはコンフリクトから生まれる)
  • 組織文化と制度ロジック
    • 文化は多義的でその用法は文脈に依存する
    • 組織文化=個々の組織における観念的・象徴的な意味のシステム(佐藤・山田 2004)
    • 両者は適用の単位が違う
      • 文化:抽象化の過程で、文化の源泉(=還元可能なカテゴリ)が軽視される
      • 制度ロジック:制度セクターという各組織の制度ロジックが還元される源泉が明示される

2022/05/18

Brazzill, M. (2020) The development of higher education in Japan and the United Kingdom, Higher Education Quarterly, 75, 381-397

  • 英国の新自由主義改革:SESの低い人の高等教育アクセスを阻害した。← 授業料導入により障壁が高くなった。
  • 英国:中流階級が選挙人として重要 → ポリテクでニーズを吸収する
  • 日本:戦後しばらく中流階級が重要出ない → 私学の拡大で対応した。

2022/05/17

小玉重夫・村松灯・田中智輝(2021)「高大接続改革の教育政治学的意義」『東京大学大学院教育学研究科紀要』61, 275-286

  • ランシエールの無知な教師:知識を有する者が知識を有さない者に対して「説明」をするという「説明体制」のもとでは、生徒の愚鈍化が進行する
    • 教師自身の説明が下手を指さない
    • 自分の権力を守るために嘘をつく者でもない
    • 生徒を服従させることによる
  • → 優れた知性を持つ者が劣った知性を持つ者を支配する構造そのものを変える必要がある
  • 高大接続のトランジションからトランスフォーメーション
    • 暗黙の仮定:知を生産する大学と知を伝達する高校=移行が必要
    • → その構造自体の変革(トランスフォーメーション)を含むべき
  • 知性の平等の前提に立てる教師=無知な教師=自分の学識から伝達をしない=説明と別の方法で教える
    • 生徒の知性が教師の知性に服従しない=教師と生徒は意志と医師の関係で結ばれる=教師が生徒自身の知性を用いるように強いること
    • → (1)質問する、(2)語ることを求める
    • 自分の知性を用いて文献に向かっていることを確かめるために、この2つの行為を行う
    • 文献を読ませる
    • 教師も一つのメディアになる(探求すべき内容を含んださまざまな事柄を提示するもの)
  • 高校の探求学習は、知性の平等につながる可能性はあるが…
    • その成果が進路実績や学術的・職業的観点から評価されてしまう(堀川の奇跡)
    • ← 高校生は本来大学生・研究者・社会人より劣っているという暗黙の前提
    • 探求学習の多様化の固定化:進学校=研究機関と連携、非進学校=地域と連携(多様化の名の下で序列が固定化されている)
  • 教育の出口である結果を重視する(=学習成果を数値化して評価)=ツリー構造の教育=普遍的な真理が頂点にあり、大学から中等、初等、幼児へ降りる垂直構造
    • → 出口がなく、答えのない問いと向き合う子供の探求活動をベースにした、ローカルで分権的なリゾーム型へ転換する必要がある

2022/05/15

元濱奈穂子(2021)「高等教育の質保証改革の根本的メカニズム」『東京大学大学院教育学研究科紀要』61,511-520

  • 質保証=誰にとっての質なのか、別の質はあり得ないのか、 という問いから逃れられない。→質保証システム自体が、改革が改革を呼ぶ再帰的性格を有する→改革を繰り返すだけでは質保証システムの 妥当性を向上させることはできない
  • 認証評価制度開始当初の評価の重点は「教育の成果よりも大学内の教育プロセスの課題把握」(林 2020)→教育研究活動の自己点検や改善につながっているかどうか=内部質保証へと移っていく→現在は学習成果の可視化を重視
  • この問題は2タイプの研究で把握されてきた
    • 現状の質保証システムの課題を乗り越えるため に,今後のさらなる改革の必要性を提言するもの
      • 望ましい将来像の提示に重きを置く
      • ただし、現行システムが課題を抱えている理由に関しては、グローバル化やユニバーサル化といっ た大学を取り巻く状況の変化に触れる程度の説明しかしない
    • 不断の改革の空虚性を批判するもの
      • 改革が現場の疲弊を招いていること、現場の「脱連結」的な対応によって改革の形骸化が起こっていることを指摘する
      • ただし、批判の多くは政策立案者に向けられ、質保証システム自体が内在する課題は看過
  • Harvey and Green(1993)の5つの質
    • 卓越性、完全性・一貫性、目的適合性、金銭的価値、変容
    • →複数の達成すべき質が共存している
    • →関係者たちはその事実に無自覚なままで「質保証」や「質改善」の議論を展開
  • 評価団体による認証評価制度の狙い=目的への適合としての質
    • →目的を何に設定するか によって評価が大きく変わる
    • →誰にとっての目的で適合度をどのように測るのか?
    • Harvey and Green(1993)=目的への適合としての質の評価の特徴は、インプット・アウトプットではなく、プロセスに焦点を当てた間接的な評価になる傾向がある→メカニズムがあれば質は保証できるという暗黙の前提
    • →目的への適合としての質の評価は、質そのものではなく 組織が質を達成するためのプロセスを保持しているかどうかの評価
    • →そのプロセスが結局のところ何を保証しているの かという疑念から逃れられない
  • 認証評価の関心の変化:法令順守中心のミニマム・スタンダードの達成→学生が何を身に付け、大学はどう貢 献し、改善に努めているのかを社会に示す(野田 2020)
  • 内部質保証重視への移行は、プロセスの評価を通して間接的に質を判定する認証評価制度の根本を覆すものではない
    • 評価の対象:大学としての教育研究活動の質をよりよく推定すると見込まれる自主的・自律的な 質保証への取組の有無⇔教育研究活動の質そのものではない
    • ただし、間接評価への疑念は提示された→「フォローアップ体制を整備する」=内部質保証の方法を指定することで、内部質保証を弱体化させた可能性
      • 標準的な基準に準拠した評価は、質への責任を組織の成員から引きはがすことに繋がるため、質の文化の概念に馴染まない(Harvey and Green 1993)
        • 成員が評価の枠組みを絶えず捉え直し、修正していくプロセスこそが、質の文化を維持するうえで重要
  • 学習成果重視=質を直接的に評価する方向へとシフト→金銭的価値としての質の台頭
    • 学習成果は、ステークホルダーと大学の間で共通理解を形成できる評価指標という前提
    • →自身の教育研究にどれだけ金銭的価値があるかどうかを大学自身が示すことによって、大学が自律的に質を改善することが可能だという暗黙の前提
  • 個々で生じる疑問:学習成果を定めることができるのは誰なのか?
    • コンピテンス枠組みは広く共有されるための公共性と正統性を付与されること が望ましい(深堀)
    • 意図された学習成果として機能することが期待されている分野別参照基準を、現場の第一線教員に回帰させるべき(広田)
    • 全ての学修成果・教育成果を網羅的に把握することはできない(中教審大学分科会)
  • 日本の質保証システムは、なぜ20年以上 にわたって改革を繰り返さざるを得なかったのか?
    • これまでの改善=一部の批判をかわす効果はあったが、質の政治性や包摂性に関する別の論争を呼ぶことで新たな批判を生んだ
    • →大学教育の質を評価することの根本的な限界を明確にしたうえで、その限界を補うための視点を考えるべき
    • →質をめぐる政治性が、実際の質保証の手続きの中でどのように表出するのかをい、まずは実証的に議論すべき
    • 新たな質の評価方法を提唱するのではなく、質をめぐる政治の中でこぼれ落ちやすい視点を拾い上げる=雇用可能性を意識した学習成果の設定と評価に対して懐疑的な教員たちであっても、現行の学習成果の枠組みを活用しながら、自身の納得のいく質の教育を実現する事例の蓄積